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いい年悪い年


ペラい紙に書かれていた日程は以下のとおりだ。
出発は十二月三十日。雪山がある場所は存外近く、列車で数時間で行けるようだった。
着いたその日のことも綿密に予定が組まれていて、思わず眉を寄せる。まずはスキー三昧で、晩は親睦の意味もこめて全員で宴会。その横にはアルコール厳禁、と太文字で書かれている。
料理は夏の合宿と同じく、新川さんと森さんが担当してくださるらしい。田丸氏二人は翌日の朝に遅れてきた客として登場らしいが、そこまで細かくしなくても。
まあそれは推理ゲームの前フリだそうだから許せるかな。
そして大晦日に事件発生、のち午前0時前に全員が集合し、各々自分が考えた推理を披露するという予定で。
誰かが解けばそれでよし、誰にも解けなければ古泉が解答を披露するきまりになっている。
そんで事件の真相がわかって何もかもがスッキリとした気持ちで新年を迎えられるというわけだ。

「新年を盛大に祝ってあげたら、きっと新年も感謝して、いい年をもたらしてくれるわ。あたしはそう確信しているの。来年はSOS団の転機となる年になりそうな気がするのよね。だからあんたたち、気ぃ抜かないで新年を祝うのよ!」

年月を擬人化している点はまだ許せるが、誰彼にも等しく新年がいい年になるとは限らんだろう。
と、微妙にかわいくないことを考えている俺の思考を読み取りでもしたのか、からからと笑いながら名前が俺に言う。

「ま、それは来年になってみないとわかんないよ。今から悩むと疲れるだけだし、ここは気楽に行こう?」

「………ああ」

名前の笑みは、なんとなく気が抜ける。こいつといると、いちいちピリピリ考えている自分がバカらしくなってくるな。
まあ、今年が面白くなかったわけじゃない。だから来年もそんな風に楽しい年になればいいなと思う。ただ、そんないい年が続くのもなんかいやだろう。いいことが続けば悪いことが訪れる。だから。

「キョンー、なんかまた難しい顔してるよ」

名前が呆れたように俺の眉間を見つめた。気楽にいこうと言った直後にこれじゃ確かに呆れられるわな。すまん、と呟いて眉間を軽く指先で揉む。眉間マッサージを行う俺をよそに、ハルヒは無駄に声を張り上げた。

「みんな、しっかりスパークしなさいよ。いい?大晦日は実は年に一回じゃないの。考えてみなさい、その年のその日は一生に一度しかないわけ。今日だってそうよ。今日って日は過ぎちゃえばもう二度と来ないの」

知らなかったの?という顔をされてもなあ、と脳内で突っ込みつつ、肉団子を皿によそう。

「だからね、悔いを残さないように過ごさないと今日に申し訳ないわよね。あたしは一生記憶に残るような毎日を過ごしたいと思うわ!」

「がんばれ、ハルヒー」

ぱちぱちと気の抜ける拍手をする名前に向かってふんぞり返ったハルヒは、満足したように朝比奈さんが淹れた茶を一気飲みした。



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