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太っ腹名誉顧問


ハルヒは鶴屋さんの言葉や食べっぷりで気を良くしたのか、鶴屋さんが豚肉やら長ネギやらを口の中に入れるとほぼ同時に次の具を皿に入れていく。しかし鶴屋さんもそれを咎めることなく、ぱくぱくと食べていった。しかしあんなに細いというのに、どこにあれだけの具を収納しているというのか。

「いっつも家族で行くんだけどねっ」

きちんと咀嚼して口の中からものが無くなってから口を開く鶴屋さんが、にぱっと笑った。

「今年はおやっさんがヨーロッパ出張でいないんだよね。どうせだから三が日が終わったら家族でスイス行ってスキーしようってことになっちゃったっ!だから別荘のほうはキミたちと行くよ!ハルにゃん企画だったらなおさら面白そうだしさっ」

朝比奈さんから合宿の話を聞いた鶴屋さんが提案してくださったそうだが、彼女のSOS団に対する貢献ぶりは半端じゃない。もういっそ俺を解団してくれて構わないから、鶴屋さんを正式な団員に迎えたらどうなんだ。
しかしハルヒは、机の中から取り出した無地の腕章に『名誉顧問』と書きなぐって、それを鶴屋さんに進呈した。……らしい。俺はその現場を見ていなかったからわからないが、のちに古泉と名前から教えられた。
その古泉だが、今は鶴屋さんと長門とハルヒが織り成す大食い選手権(みたいなものになってしまっている)を薄ら笑いで眺めていた。俺が怪しいものを見る目つきで見ていたことに気付いたらしい、こちらに顔を向けて胡散臭いニコニコ笑いを浮かべる。

「ご安心を。今度はドッキリではありませんから、あなたが懸念するようなことは何もないと思いますよ」

勝手に人の心を読むな。

「今回は、あらかじめ断っておいた上での推理ゲームです。実はメンバーも前回と同じなんですよ」

前回と同じ、と言う言葉にどこか引っかかった。前回の孤島での一件以来、古泉と名前がひそひそ話をしていたらとりあえず疑うようにしているのだが、今回はそんな様子は無かったな。名前はゲームのスタッフになっているのだろうか。

「ふふ、それは秘密ですよ。どちらにしても、決して前回のように大事にはなりませんから。そう怖い目をしないでください」

へらへらと気の抜けた笑顔を浮かべている古泉を無視し、視線を長門に滑らせる。長門の表情はいつもどおりの無表情で、何か特別変わった様子も見られなかった。
思い出す、あの出来事。胸がちくりと痛む。今回の合宿では、なるべく長門に負担をかけないようにしよう、と心に決めて、名前に視線を移した。一人でもくもくとえのきを食べているその顔もやはりいつもどおりで、なんだか少しだけ安心する。

「キョン、多分この大根今がちょうどいいよ」

「おう」

ほどよく煮えた大根を名前にとってもらって、口に入れた。白い湯気が上がる中、この空間がいつもどおりなことに妙に安心する。俺は結局この空気に、安心させられてばかりだな。
長門だけじゃない、名前だって、できれば負担はかけないようにしよう。古泉とその仲間たちにその負荷をかけりゃいいんだ。なんて勝手なことを思って、ほんの少し溜息を吐いた。



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あきゅろす。
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