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鍋を囲む人たち


「予定通り、この冬は雪の山荘に行くわよ。ミステリアスツアー第二弾ってとこね!」

予定通りと言われても俺は予定を立てた覚えはない。
企画書らしきペラいものを配りながらハルヒが言う言葉に、逐一脳内で突っ込みをしながら鍋をつつく。時間は二十四日の終業式終了後。
ハルヒが作り上げたごっちゃ煮鍋は大人気で、特にこの方は男である俺よりもたくさん、そして豪快に食っていた。

「うわっ、めちゃウマいっ。えっ、何これっ?はぐはぐ…うまっ。ひょっとしてハルにゃん天才料理人?ぱくぱく……うひょー。んーっ、ダシがいいよ、ダシがっ。がつがつ。やっぱさあっ、冬は鍋だねっ!さっきのキョンくんトナカイ芸もおもろくて大笑いしちゃったし、いやーっ今日は楽しいなあっ」

苦笑するしかあるまい。はは、大笑いしてくださったのはあなただけでしたね鶴屋さん。

思い出すのももの悲しい数時間前の出来事だ。ハルヒと古泉は始終ニヤニヤと笑っていて、朝比奈さんは芸の途中で顔を伏せて肩をふるわせ始めたし、長門はそれのどこがおもしろいのかとまじめに考えている様子で芸を見ていたな。
名前に至ってはもう言葉にするのももの悲しいが、哀れなものを見るような目でこちらを見ていた気がする。プラスひきつり笑いときた。なにこれ泣いていいか。
いたたまれないとはこのことだと悟った俺は、背中にかいた滝のような冷や汗をなんとかごまかしながら席に戻ったような気がする。
つまり俺は人を笑わせる才能がないと言うことだな。絶対に芸人の道だけは志すまい。
話がそれたな。とりあえず、そんな俺の芸に唯一嬉しいリアクションをとってくださった鶴屋さんだが、彼女は単なるゲストとして来たわけではない。
スペシャルゲストなのだ。何がスペシャルかと言うと、

「その吹雪の山荘なんだけどね。喜びなさい、キョン。なんと!鶴屋さんの別荘を無料で利用させてもらえることになったわ。なんかスゴくいい所らしいわよ。今から楽しみだわ!というわけで、たっぷり食べてちょうだい!」

そういうわけなのである。宿代にしては安すぎるが、ハルヒは豚肉ばかりを鶴屋さんの皿に投下し、ついでに自分の皿に食べ頃になったらしいアンコウの切り身を入れていた。
野菜も食べなきゃだめですよ、と朝比奈さんが野菜をとって鶴屋さんの皿に控えめにのせる。
長門は椎茸の形状を分析でもしているのか、丸く茶色でぶよぶよとしているものを箸先でつまんでふらふらと動かしていた。



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あきゅろす。
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