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ほぼ現実逃避


なんでこんなことになってしまったのか、なんてことを今更考えても仕方のないことであるが、考えるより他に何も無い。
どうにかこの状況をかえることはできないか、と悶々していると、横を歩いていた名前が不安そうに長門の背中を見つめていることに気付いた。

「どうした?」

なるべく吹雪のビュウビュウとした音に負けないように声を張り上げる。だが、名前は俺の問いかけにハッと気付いたように目を瞬かせて、首を横に振るだけ。
こいつが不安そうな顔をしているというだけでもう俺も不安になるのだが、どうしたらいいんだ。
俺もつられるように長門を見る。長門の足取りは先ほどと何一つ変わらない。だというのに、ゆらゆらとしていて不安定に見えるが、どこか安心できるように見えていたはずの足取りが、なんだかどんどん重たく、頼りないものに見えてきてしまった。

「何かあるのか。お前がそんな顔をしてると、俺まで不安になってくるんだが」

「あ、ごめん……。うん、いや、大丈夫だよ。先頭を歩いてるから、寒そうだなあって思っただけ」

確実に嘘だとわかる言い訳を口にした名前が、不安そうにゆがめられていた顔、主に頬あたりをぱちぱちと手袋ごしに叩いて直す。しかし、顔を上げて長門の背中を見始めるとやはり表情がへしゃりと歪む。いったい何なんだ。俺の胃にこれ以上負荷をかけないでくれ。
現実逃避にも近いが、とりあえず今のことは忘れて過去のことに思いをはせることにした。

なんでこんなことになっちまったのか?思い出すのも忌々しい、というほどでもないのだが、こうなってしまったのは実に忌々しい。
そりゃあ勿論ハルヒが行くわよと言ったからここに来ることになったのだが。
今年の夏、まだ夏が繰り返す前に孤島に出かけたときのことを覚えているだろうか。俺は勿論忘れていない。忘れられることなんかできないようなインパクトの強い合宿だったしな。
そのときの帰り、フェリーの中でハルヒが高らかに宣言したのだ。ツアーコンダクターを任された古泉が言葉に出来ない苦笑を浮かべていたことも覚えている。
そして冬になったら、忘れてりゃいいのにこういうことだけは覚えているハルヒがついにはツアー予定表なんつうものまで作ってきてしまったわけだ。「年越しカウントダウンinブリザード」という、家族と共に年を越そうと思っていた大晦日の予定をスッパリ切っての提案に、最初はいい加減にしろよと思わないわけでもなかったが、俺以外のメンバー全員が企画に参加してしまうのであれば参加しないわけにもいかない。
思い出すだけで遠い目になりそうな出来事だな、と改めて思いながら、冷えすぎて痛くなった鼻をさすった。



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あきゅろす。
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