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過去最低の状況


しかし、同時に古泉に文句を言っても仕方が無いことも解っていた。
今まで色々なことがあった。ハルヒにSOS団なんていうトンチキな団に入れられたことも、普通の人間だと信じていた奴らがそれぞれ人外であったりそんな能力を有していたことも、卑怯技を使って野球で一勝をあげたことも、夏が延々とループしていたことも、自然の摂理をひん曲げるような出来事が多発した文化祭提出作品(と言ってもいいのかすら俺にはわからない)の撮影も、パラレルワールドみたいな奇妙な世界に飛ばされて数日を過ごしたことも、その帰り間際にとある宇宙人から刺されたことも。
全部全部、そのたびそのたびに大変だなと思ったさ。これ以上にはもうこんな苦痛訪れないだろう、というくらいのことを何度も考えた。次から次へと危険な状況に放り込まれてきた俺だが、それでもなんとかなってきたのは、ひとえに周りにいた奴らの力のおかげだろう。
そうだ。俺は普通の人間だ。長門みたくキテレツなことができるわけでもなし、朝比奈さんのように時間遡行ができるわけでもなし、古泉みたく妙な空間に入り込んで世界崩壊を食い止めるべく巨人を倒すわけでもなし。そんな俺が何かできるはずがないじゃないか。そりゃ周りの、不思議な力を持ってるやつに助けを求めるさ。
だが、今回ばかりはそうはいかなかった。誰に助けを求めようが、皆俺と同じ状態だった。もとより異世界人という肩書き以外は特殊な能力を有していない名前に助けを求めることはできないし、あいつにこれから先俺たちがどうなるのかと聞くのもなんだか怖い。
唯一の望みは宇宙人という肩書きを持ち、かつ人間の限界レベルをすらりと抜いたハイスペックな長門だったのだが。

「異常であることは間違いないようですね。僕にはまるっきり予測不能でした。そして頼みの綱でもある長門さんにも、今回の原因は把握できていません。今の僕には、不測の事態が発生したということしか解らないんですよ」

疲れたように笑って古泉が呟いた。先導する長門ですら帰り道を発見できず、かれこれ数時間あたり雪道をさ迷っている。これが異常事態だということは、歩き始めて一時間前後でもう気付いていたんだ。ただ、口にするのが怖かったからあえて黙っていただけで。
まあこういう異常事態というのは、たいていがハルヒの思い付きによるものだということは俺も学んでいたので、慌てることはないと自分自身に言い聞かせる。

「どうせハルヒが『雪山で遭難してみたいわっ!』なんて考えたからこんなことになったんだろうが」

できるだけ前を歩くハルヒに聞こえないよう、声を極小に潜めて古泉に言った。吹雪でほとんど、言っている俺ですら聞こえにくいというのに、古泉は一度言っただけで理解して苦笑を浮かべる。

「さあ、一概には言えませんね。ただ、僕個人の意見を言わせていただけるならば、この現象は涼宮さんが望んだものではないのではないかと」

「何故言い切れる?」

「ここに来た目的をお忘れでしょうか?そもそもは、涼宮さんが宿の山荘で発生する不思議な密室殺人事件劇を楽しみたいと仰ったのがはじまりですよ。今回はドッキリではなくあらかじめゲームであることを明かしての殺人劇ですが、それでも随分と楽しみにしていらっしゃいました」

「……まあ、確かにな」

そんなハルヒであれば、さっさと山荘に戻りたいと思いこそすれ、こんな寒いし動きづらい雪山で遭難したいなんて思いはしないだろう。
はあ、と吐いた息が白く、凍えた口元をそっと指先で撫でた。



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