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吹雪の中で


月末、年末、大晦日。
言葉にすれば様々だが、日付にすればなんてことはない、十二月の三十一日。
の、前日。そう、三十日だ。本来ならば家で新年に向けて家の片づけをして、三が日前後に田舎にあいさつ回りに行くための旅行の準備をし、年賀はがきを出し終えた疲れを癒すために休む日だったはずなのだが。

「雪がすごいねえ」

隣を歩いていた名前がぽつりと呟いた。
本当は大きな声で言ったのかもしれない。耳を打つ雪の冷たさと、風の激しさで耳が凍え、ついでに風以外の音がかなり遮断されていたから、やっぱり大きな声で言ったのだろう。

「まいったわね。全然前が見えないわ」

俺の前を歩いていたハルヒがさらに続ける。あのハルヒにすらまいったと言わせるだけの猛吹雪が、容赦なく俺たちを襲った。

「おかしいですね……距離感から言って、とっくに麓に着いているはずなのですが」

古泉の珍しく弱った声に続き、朝比奈さんがか細い声を上げる。

「冷たいです……うう、ひい」

このメンバーの中で唯一不安要素を抱えているのが彼女なので、俺は何度も振り返っては朝比奈さんの姿を確認していた。
先導するのは長門だが、その長門の足取りですら心なしか重たい。いつもに増して無口に、黙々と歩いていた長門が、稀に振り返って俺たちの姿を確認してくれるが、吹雪でその姿すら曖昧だ。

「うあっ、と」

「おい、大丈夫か」

俺の斜右を歩いていた名前が短い声を上げて、べしゃりと雪面に倒れこんだ。スキー靴の裏にびっしりと挟まった雪が、動きを悪くさせているのだろう。腕を引っ張って起き上がらせた後、念のため腕を持って歩く。
さすがに吹雪のオプションがついた雪山は、普段そんなものとは縁の無い俺たちにとって強敵だった。かなり絶望的な状況だ。見渡す限り白、白、白。どこを歩いても雪の道。吹雪は止むどころかさらに強くなってきて、俺たちの足取りを遅らせる。
朝比奈さんあたり、だいぶ体力の消耗が激しいように思えた。もしこのままここで俺たちが力尽き、うっかり降り積もる雪の中に埋まってしまったら、春先にチルド状態で見つかるなんてことになってしまうのではないか。
うっかりすぎる状況を想定してしまい、不安になった俺は古泉に向き直った。

「古泉、なんとかしろ」

「そう言われましてもね」

苦笑した超能力者が、コンパスを取り出して方角を確かめる。

「今のところ、方角はあっていると思います。長門さんのナビゲーションも完璧でした。ですが、僕たちはもう何時間も山を下りることができていません。今までの経験を踏まえて、これは普通の状況ではないということが考えられますね」

そりゃ俺にもわかってるんだ。



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