幻の689点
地獄のような期末テストも終わり、相変わらず低空飛行を続ける解答用紙が全て返されたところで、俺はまるで地蔵のように固まったまま動かない名前を見つけた。
隣の国木田が、どうしたの?だか、そこらへんの言葉をかけているようだが、全く聞こえていないようだ。ぽけーっと中途半端に口を開いたままで、国木田の言葉どころか周りの音にも気づいていない。誰かがふざけて投げた消しゴムも、「避けてー!」という声を伴って飛んで来ているというのに全く気づかず、見事頭にクリーンヒット。
「テスト、そんなに悪かったの?」
ようやく国木田の言葉に気づいたらしく、はっと目をぱちくりさせて、曖昧に笑う。悪かった、のか?なんだ、あいつも低空飛行仲間か。どんな仲間かは俺も知らんが。
そう思っていると、教壇でテストを全て返却し終えたらしい岡部が、あーコホン、とわざとらしい咳をした。
「今回のテストだが、うちのクラスで最高得点は苗字の689点だからなー」
「「えっ!!?」」
俺と国木田が同時に叫んだ。俺は岡部の言葉に、国木田は名前のテスト用紙に。
遠目に見れば、名前のテストの解答用紙には見事な90点台のオンパレード。国語は100点ときた。中間テストは7教科、つまり最高得点は700点なわけで、あいつどんだけ頭がいいんだ。なぜか俺は置いていかれた気持ちになる。
「名前、頭良かったのね」
あたしは今回そこまでよくなかったわ、と言ってびらりと80〜90点台の解答用紙を広げるハルヒにどれだけ俺が殴りたい欲求を覚えたのかは神のみぞ知る、とにかく俺は驚いている国木田とまだぽけーっとしている名前のところへ足を向けた。
「おい、名前」
「…あ、キョン」
反応したのは国木田で、名前は自分のテスト用紙に目をやったまま。そんなに自分のたたき出した点数が気に食わなかったのか、信じられなかったのか。丁寧な字が赤ペンで綺麗に囲まれている。丸尽くし。
「おい名前、お前頭良かったんだな」
「…………」
名前は無言で頭を振った。
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