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まもるよ


「ごめんなさい。今の私にはこれしか言えないの。…名前ちゃん、あなたはね。私たち…私のいる時代にとって、世界の崩壊の鍵を握っている、『脅威』の存在として危険人物に指定されているのよ」

名前から聞いていた大雑把な説明では伝わりきらなかった、スケールのでかさを今更思い知った。世界崩壊の鍵って。さすがハルヒの卵だな、レベルが違うぜ…、と、半ば現実逃避しながら二人のやり取りを眺める。

「あなたと同じ時代にいる私は、ただ上司に言われるままに行動をしていたけれど…」

その言葉に、幾分かホッとした。もしあの、俺の知っている朝比奈さん(小)が何もかもわかっていて、名前が危険人物だということをわかっていて、あんな笑顔で任務を遂行しているのだとすれば、随分とやりきれないことだと思ったから。
手に汗握る展開、というものをこの身をもって味わうのは半ば初めてで、しかもブラウン管を通した世界でもスクリーン上で放映される世界でもないなんて、自分自身にびっくりだぜ。過去の人物を見てこんなに汗をかく。
昔はよく見ていた、某猫型ロボットの四次元ポケットから、ありとあらゆるものが出てきたことを思い出す。あれで過去に遡る道具だってあった。でもあの場に出てきた人物たちは、何のためらいもなく過去を変えたさ。俺みたいに、未来を変えることに何の躊躇も恐怖も持たずに。
漫画と現実は違うんだ、と思い知らされる。でも、名前にとっても俺たちは、自分とは違う何かとして認識されているんだろうか。
朝比奈さん(大)は一度閉じていた唇を薄く開くと、銃を握っていた手に力をこめた。いつ最悪の事態が起きても驚かない展開だ。

「今の私は全て自分の意思で動ける。だからこれも、私の意思です」

聞きたくはないが、聞いてしまった。俺が聞きたくないくらいなんだ、名前はもっと、辛かっただろう。ぎり、と歯を食いしばると、鉄くさい味が舌の上に広がった。あんまりに力をこめすぎて、唇の端を噛んでしまったらしい。
手探りで名前の手を探して掴む。大丈夫だ、ここにいる。もし今目の前で過去の名前が死んだらどうするんだ、という懸念も捨てきれない。だがしかし、ここで飛び出すわけにも行かないんだ。ああ、どうしたら。

「――名前ちゃん、あなたがいると、世界が壊れてしまうんです。だから………」

無情な一言と共に、朝比奈さんは攻撃開始の人差し指をぴくりと動かした。

その瞬間、ピリリリリ、と小さな音がして、朝比奈さんが銃を下ろす。

「……時間です。行かなくちゃ」

どこか嬉しさをにじませたその声音で、俺の体からどっと汗が吹き出た。緊張が解けたことによるものだ。そういや、あんまり時間がないとか言ってたかな。
銃を手に持ったまま、朝比奈さん(大)は『名前』から銃口をそらした。ほう、と吐息を漏らして、左手の細い指先で唇に触れる。

「今回は、こういう運命だったのね。恐らくまだ、名前ちゃんに会う機会もあるでしょう。きっとそのたび、私はあなたを殺そうとするわ」

絶対にさせるものか。
握ったままの手を軽く引っ張ると、名前がもたれかかってきた。怖がっているのかもしれない。でも、頑張るから。俺にできる限りなら、死なない程度に頑張るからさ。



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あきゅろす。
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