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鍵のありか


おいしくて優しい味に、表には出さず感動していると、その傍らのハルヒは私が完食まで時間を潰すに徹することを決めたのか、テレビのチャンネルを変えてはつまらなそうに溜息を吐いていた。

「おいしい。ありがとう、ハルヒ」

「いいから、さっさと食べなさい」

時間は待ってくれないのよ、とぶっきらぼうに言う口調が、さっきよりも柔らかい感じがした。私はただ微笑んで、オムレツを食べることに専念する。冷めないうちに、おなかが膨れて満足してしまわないうちに。
ただし出来立てだから熱いので、口の中がやけどしないようにゆっくり食べるから、ハルヒがもう一度さっさと食べなさい、と呟いた。
ハルヒはそれきり喋らないし、私も食べているから喋らない。ようやく食べ終わって、いつの間にか出されていた水を飲んで、コップを置いた。そのとき。

「……なかったわ」

「…?」

「鍵」

ああ。
合点がいって、軽く頷く。別にハルヒが悪いわけじゃない。なのにハルヒは自分を責めるような顔をして、私の目を見ないままテーブルをにらみつけた。
勿論、期待していなかったといえば嘘になる。だけど、絶対に無いだろうな、という自信もあった。だからハルヒが気に病む必要なんてないのだ。もし『世界を改変した誰か』がハルヒであったのであれば、ハルヒの部屋にヒントを隠すくらいのことはしたかもしれないけど。いや、でも、それもないかなあ。ハルヒならもっと、面白おかしいところに鍵を忍ばせていそうだ。

「ねえ」

「……何?」

皿を洗おうとキッチンに向かった私の背中に、ハルヒの声がかけられる。カウンターごしに見つめると、今度はちゃんとハルヒの目が私の目を見ていた。あたし思ったんだけど、とハルヒが小さな声で呟いて、かたちのいい唇を動かす。

「もし、あんたの言ってた『鍵』が存在するとしたら、光陽園高校には無いんじゃないかしら」

「……どうして、そう思うの?」

「ただの勘だけど……。ジョンが北高の生徒だったでしょ?」

「そうだけど……」

でも、キョンが北高の生徒だったから、何?
ハルヒと古泉くんと、なぜか私は光陽園にいたのだし、多分光陽園にはないとか、北高にはあるとか、そんなことは無いんじゃないのか。冷静に考えればわかることだろうに。ハルヒももしかしたら混乱してるのかもしれない。そりゃ、混乱してるよなあ。混乱しないほうがおかしいもんなあ。

シンクの上に置いた皿が、がちゃん、と大きな音を立てた。



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あきゅろす。
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