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きれいなオムレツ


だん、と大きな音がして、何の音だろうと考える前に、目の前に置かれた皿が立てた音だと察する。
見覚えの無い食器だったけど、今目の前に差し出された以上、私のものに違いないのだろう。白い皿の上には、ほんの少し破けているところがあるものの、綺麗に整ったオムレツがのっていた。

「…これ」

「食べなさい。残すんじゃないわよ」

ハルヒはそう言って、いつの間にやら後頭部でひとまとめにしていた髪の毛を解く。ばさりと長い髪の毛が翻って、きれいだなあ、と思った。あんたの箸ってこれ?と言いながら木製の箸を取り出して、私の目の前に突き出してくる。自分のものかどうかはわからなかったけど、多分色合い的に私のだろう。残った二つの箸は、亡くなったらしいこの世界での私の両親のもの。

「……いただきます」

「どうぞ」

ふんわりと膨らんだオムレツの、左はじっこを軽く崩した。半熟で、すごくおいしそうだ。一方のハルヒはまるで私を監視しているかの如く、テーブルの向かい側に座って両肘をつき、眇めた両目で私を見る。
ご飯は食べれる?と聞かれたので、軽く頭を振った。さっき食べたリンゴで、結構もうおなかいっぱい胸いっぱい、という感じなのだけど。オムレツはおいしそうだから無理してでも食べるとして、ご飯ばかりはどうしても入りそうに無い。

「朝食を食べないと一日もたないわよ」

「………」

正論だ。
たまーに、正論を突き出されると腹が立ったりする、そんなことがないだろうか。いや、今目の前のハルヒの発言に腹が立ったわけではないけど。正論を言われると、どうしようもない。黙り込んだ私を見て、ハルヒは小さく溜息をついた。訂正、かなり大きく溜息をついた。

「あたしはあんたの保護者じゃないんだからね。倒れても責任取れないわよ」

「た………、お、れないよ」

「………」

鋭い視線を向けられていることに気付いて、急いで逸らした。にらめっこならともかく、純粋な見詰め合いで私が勝てるはずがない。嘘を言うな嘘を、と言った表情が私を見ているのはわかった。だから、依然として視線はそらし続けた。



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