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朝のお宅訪問


流れる着信音が、私の名前を呼んでいるようだった。
のろのろと腕を伸ばして、携帯電話を掴む。ランプが点滅していて、音楽がいつになっても止まらないことから、恐らく電話なのだろうと考える。見たこともない番号だった。だれ?と思いながら、恐る恐る通話ボタンを押す。

「もしもし……」

『遅い!』

「……え?」

キンと響く、高く鋭い声に、一瞬携帯を耳から遠ざけた。え、なに?と、驚きで頭の中が真っ白になってしまう。明らかに聞きなれた声だというのに、違う人みたいに思ってしまった自分が、なんだかひどく嫌だった。

『あんた、まだ寝てたの?今何時だと思ってんのよ』

まだ寝てたのって、寝てないんだけどな。
それは言わずに、促されるまま時計を見る。時刻はいつもの出発時間のおよそ1時間と少し前で、『今何時だと思ってんのよ』と言われるほどの時刻ではないと表明していた。

『バカね。鍵を探すんでしょ、のんびりしてる時間なんてないわ!』

「あ、でもまだ、ごはん食べてない……」

お腹はすいていないけれど、思わず口からこぼれ出てしまった。ハルヒは、はあもうあんたねえ、と呆れたような口調で呟いて、住所はどこ?と問いかけてくる。
住所。住所ですか。ぼーっとした頭のまま、とりあえず見覚えはないけど住所が書いてあった手帳を引っ張り出して、ハルヒに伝える。ハルヒは1度だけ確認してから、すぐに電話を切ってしまった。
どういうことだろう……。とりあえず、早く行かなければならないようだ。ただ体を温めていただけのベッドから抜け出して、制服に着替える。乱れた髪の毛を整えて、顔を洗って、冷蔵庫の中に入っていたリンゴを取り出して半分だけ食べてから、歯磨きをした。

ぴーんぽーん。

空気を薙ぐような、それでいて気の抜けるチャイムが聞こえて、私は口に突っ込んでいた歯ブラシを引っこ抜いた。泡だらけの口を漱いだ後、はあい、と声を上げてタオルで顔を拭く。

ぴんぽんぴんぽんぴぽぴぽぴ、

「はあーい!」

まったく、誰だ、こんな時間に。
心の中は空虚で、なんだかとてもやるせなくて、何もかもやる気が起きないのに。でも私は起きて、着替えて、何かを食べている。不思議な気持ちだ。生きようと思う人間の本能が働いているせいだと思うけれど、やっぱりどこか、心の隙間を空気が通り抜けていったような感覚がする。

ぴぽぴぽぴぴぴぽ

「はいはいはい」

乱雑なチャイムに思わず私も苛立ってしまって、ドアスコープから向こうを覗くこともせずにドアを開け放った。発生した風で、目の前に黒い髪の毛が翻る。

「………ハルヒ…」



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