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目を瞑る背景


「…すぐ済むの。お願い。名前ちゃん、目を………、瞑ってて、くれない?」

なぜかしょんぼりとしている『名前』に、どこか憂いを帯びた笑顔で朝比奈さん(大)が頼み込む。
明らかに不自然な提案だというのに、何も疑っていない表情で『名前』は口を開いた。

「目…、ですか?」

はい、と呟きながら、『名前』が目を瞑る。バカ正直に目を瞑った『名前』を確認して、朝比奈さん(大)はタイトスカートを腿のあたりまで押し上げた。もしこんな場でなければ目の保養とかアホなことを言って喜んでいたかもしれないが、今は喜ぶどころか、何してんだと叫んで止めに行きたいくらいの気持ちだ。朝比奈さん(大)は、腿にベルトか何かで引っかかっていた黒い筒を取り出して、呟く。

「ありがとう、名前ちゃん――――……、」

「はい…、?」

その黒く小ぶりで、鈍い光を発したものを掌にのせて指を引っ掛けた朝比奈さん(大)は、ゆっくりと頭を動かした。のたりと、きれいな髪の毛が翻って、ふたつの大きな瞳が、

「………!」

―――俺たちを、見た。

唖然として口を開いた俺は、あまりの驚きでびくりと震えて腰を抜かした名前を咄嗟に支えた。朝比奈さん(大)の、細められた双眸が、俺たちから外される。まさか、見えているはずがない。だって俺たちの体は完璧に木の影に隠れている。音も極力立てなかったし、名前だって腰を低くして移動したし、朝比奈さん(大)がこちらに視線を送ったそぶりもなかった。それとも、未来人にはすべてお見通しというわけなのか。
ひやりと背中を冷たい何かが伝う。
右手に掴んだ黒い筒の先端を、『名前』の額へと向けた。

「――ごめんなさい」

当たらないのはわかっている。現に、生きている名前がここにいるのだから。だというのに俺の体は勝手に動いて、口は、やめろと叫んでいた。



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