混乱する
「……ど、どうした?」
かたかた、と言ってもそこまで激しいもんじゃない。震えているかもしれない、震えていないかもしれない、程度の些細でわかりにくい震えだ。今までどんなことがあってもこんな風に取り乱したりしない奴だったからこそ、驚いてしまう。
恐怖と不安が入り混じったみたいな表情に、何かあったのだろうと察した。横目で朝比奈さん(大)がなにやら説明をしているようだ。まだ彼女と別れるまでは時間があるはずだと思って、名前に視線を移す。
「とにかく、時間がない。何かあったんなら、」
「どうしよ、う。どうしよう、キョン」
「なにが、」
全く容量を得ない名前のその珍しい姿に、どうしたらいいのか俺まで混乱してきた。だめだ、錯乱するな。落ち着け。俺が混乱してどうする。
両手を伸ばして名前の両頬を軽く叩いた。念のためもう一発叩いておく。ぱちん、と小気味良い音がして、名前が目を瞬かせる。
それからゆっくり、叩いた部分を撫でた。静かな声で落ち着け、と呟くと、震えがほんの少しだけ、治まる。
「………どうした?」
「……………」
視界の端で、何かが動いたような気がした。俺は背を向けていたから見えなかったのだが、どうやら『俺』と朝比奈さん(小)がよたよたと公園から出て行ったらしい。結局ロクに話も聞けないまま、場所を移動する。公園の外側に出てきた『俺』は、道中誰も見ていない。だから俺も見られるわけにはいかないから、迂回して公園の反対側の出口に向かった。
公園の中央には、朝比奈さん(大)と『名前』が残っているままだ。先ほどの場所より比較的近い植え込みに体を隠して、木々の隙間から二人のやり取りを眺める。どうやらここは、ぎりぎり声が届く範疇のようだった。
音を立てないようにしゃがみこみ、耳をすませる。
「さて。立ち話もなんだし……」
朝比奈さん(大)が近くにひっそりと設置してあったベンチを指差す。『名前』が座ったのを確認すると、朝比奈さん(大)はにこりと微笑んだ。音を立てないように唾を飲み込む。
「朝比奈さん、時間はいいんですか?」
「ああ、いいんです。時間が無いのは本当だけどね、多少の時間なら」
隣の名前が俺の腕に触れた。思い出したくない出来事のトップに躍り出ているくらいの出来事が、今目の前で再生されているのだ。目を背けたいくらいの気持ちだろうに、逸らさず見続けているあたりは……好奇心か?
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