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見守り見守られ


身に覚えがありすぎる、朝比奈さんの左膝枕。至福の時を過ごしているというのに、『俺』はグウスカ眠っていやがる。また、朝比奈さんの右膝を占領している『名前』は、なんだか幸せそうに笑っていた。良い夢でも見ていたのだろうか。
膝枕をしている当人は、自分の太股に乗っている『俺』と『名前』を見比べては、どちらかの耳に息を吹きかけたり、引っ張ったりして遊んでいた。それから時折ふふっ、とかわいらしい吐息を漏らして、また見比べに戻る。
一瞬、そこに寝転がっている『俺』を引っぺがして役割交代をしたい気分になったが、どうにかその欲求を抑え込む。あの時の俺は夢の中だったが、別の俺を見たわけではない。ここで一時の欲求に身を任せて、帳尻のあわないことをしでかすのだけは避けたかった。
と、理性では踏ん張っているのだが、勝手に動きそうになる体をなんとかして、俺はピーピングトム(解りやすく言うとノゾキの一種だ)を続行した。日頃理不尽女王ハルヒに鍛えられているだけはある。ここまで自制のきく人間だったということに半ば感嘆しつつ、隣の名前に視線を送った。

「……あ!」

蚊が耳の周りを飛んでいるような、本当に細い声を名前が上げた。ほぼつられるように、視線を今度は朝比奈さんに戻す。朝比奈さんが何かを言うように唇を動かし、左膝をお借りしていた『俺』は軽い身じろぎをして、いかにも目覚めたてというように体を起こす。緩慢な動作がいやに憎らしく見えた。
今俺たちがいるところには二人の声は届かない。だが覚えはいた。確か、朝比奈さんは「起きた?」と言ったはずだ。
それから『名前』を『俺』が揺り起こしそうとして、確かあいつがいや、まだだって……とか意味の解らないことを言って、眠り続けたんではなかったか。
朝比奈さんの膝の上からどけたというのに眠り続ける『名前』の熟睡レベルにはある種の感動を覚えるが、起こさないわけにはいかない。どうするかな、みたいな顔をしている『俺』の肩に朝比奈さんがのっかってきた瞬間、隣の名前がひゅーう、と声を上げた。こいつ殴ったろか。
『俺』と『名前』が軽いやりとりをしていると、ガサガサと突如ベンチの背後の植え込みが音を立てた。恐らくは反射だろうが、隣の名前がビクリと震える。大丈夫だ、今は。今はとにかく、俺がいるんだから。安心しろ、という意味で軽く手を握った。

……現れたのは、朝比奈さん大人バージョン。

ちゃんと寝てますか?と、朝比奈さん(大)は言ったはずだ。何も知らない『名前』が、口をぱかりと嬉しそうに開く。挨拶をしている様子の三人プラス一人を眺めつつ、俺はゆっくり息を飲み込んだ。ここから先は、タイミングが全てだ。
今のところ記憶の通りに進んでいるようだが、まだ不安が残る。朝比奈さん(大)と『俺』たちが別れてから、朝比奈さん(大)が名前に攻撃を仕掛け、未来に帰るまで、その一瞬を狙わなければいけない。
それをぽそりと名前に伝えると、名前は急にぐうう、と目を見開いて、かたかたと震えだした。



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