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震える、正体は


三年前の七夕とは、何があったときだ?

俺は考えた。考えるまで、数秒もかからなかった。いっそインパクトが強すぎて忘れられそうにない、時間遡行のこと。今年の七夕で、部室で短冊に願いを書いた後、朝比奈さんに誘われて、俺と名前はこの時間に来たのだ。
二人で分けれるアイスをコンビニの外で食べつつ、俺は湿っぽい空気を払うように溜息を吐いた。
さらに思い出す。この時間で、大人バージョンの朝比奈さんに再会し、夜の東中学に向かうよう促された。そこで校門に張り付いていた中学一年生時代のハルヒと出会い、グラウンドに石灰で、宇宙に向けたメッセージをえっちらおっちらと描くハメに陥った。俺がそんなことをしている傍らで、隣のこいつ、名前は、大人バージョンの朝比奈さんから凶器的な何かを向けられて結構な窮地に陥っていたようだが。
そしてTPDDとかいうタイムマシンみたいなものを紛失した朝比奈さん(小)を連れて三人で長門のマンションに行き、事情を説明して、宇宙人パワーで三年間ほど時間凍結を施してもらい、寝過ごしたような形でもとの時間に戻ってきた…。

「ということは……」

四桁の引き算よりも簡単な計算だ。覚えていることを、そのまま思い出せばいいだけなのだから。そうだ、俺はようやく手に入れた。鍵ではない、チャンスでもない、狂った世界を元に戻す、そのために必要な状況を。

「と、いうことは……」

もう一度同じことを呟いて、俺ははじめて自分の足ががくがくと震えていることに気付いた。恐怖じゃない。憤りでもない。これが、武者震いというものなのだろう。
溶けそうになるアイスを口の中に突っ込んで、俺は夜空を見上げた。清清しいほどの、星の瞬き。薄暗い空。背後から差すコンビニの明かり。生々しい空気も、すべてが、俺がこの世界にいるのだということを如実に示している気がして。
三年前。七夕。東中。絵文字。ジョン・スミス。キャシー・スミス。
色んな情報を一気に頭の中で回しすぎたせいで、スパークを起こしかけたものの、なんとかそれを沈静させることができた。結論が出る。実にシンプルで、明白な結論。

ここには、彼女たちがいる。

魅惑のグラマー朝比奈さん(大)と待機モードの長門有希。
動いてくれるかどうかはわからないが、名前だっている。
助けを借りられそうな人材が、この時間には二人、いや、三人もいるのだ。



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