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嘘をつかない四桁


「え………」

ほら、と言って小さな小銭入れを取り出した名前に、なんでそれを持ってるんだ、と問いかける。目の前で北高の制服に着替えたのだし、あいつの鞄も俺がまとめて持っていたはずだから、小銭入れなんかを移し変える時間はなかったはずだ。少なくとも、部室にいたとき、そんなものを持っているようには思えなかったし。
名前は、きょろきょろと視線を泳がせた後、気のせいじゃない?と言って気の抜けた笑みを浮かべた。

「多分、キョンが見てなかっただけだよ。ちゃんとポケットに入れてたから」

「……そうか?」

「そうだよ」

自信ありげに言われたものだから、間違いはないのだろうと思って、それ以上は何も言わないでおいた。

自動ドアが開くのさえもどかしく感じつつ、店内に入った俺はまず、壁際を見上げた。冷房の感触がぞわぞわと、暑さに慣れきっていた肌を侵食していく。アナログ時計は八時三十分を指し示しており、俺はぎこちない動きでカウンターの前まで向かった。
どれでもいい、とりあえず新聞だ。何種類もの新聞がまとめて置いてある。そこに手を突っ込んで、一番手前においてあったスポーツ紙を引き抜いて、びりりと破けるんじゃないかと思えるくらいのスピードで広げた。
記事もこの際どうでもいい。きっと、いや、確実に、どんな捏造タブロイド紙だってここだけは嘘をつかないだろう、という場所に視線をやる。
店員の兄ちゃんがウザったそうな視線をチラチラとこちらに向けてきたが、完璧に流してそこに表示されている数字を読んだ。
勿論名前は知っているからだろう、新聞をちらりと一瞥しただけで、すぐカウンターから離れていった。俺は新聞をぞんざいに畳み、また元通り、あった場所へ戻す。兄ちゃんは面倒臭そうな視線を終始俺と新聞紙にぶつけていたが、構うものか。アイスコーナーの前で動きを止めている名前の元へと小走りで近づく。

「そういうことか。……わかったよ」

「……わかった?」

「ああ」

わかったよ、長門。
俺は先ほど見た四桁の数字を思い浮かべ、元の世界の十二月時代の西暦から、スポーツ紙に印刷されている西暦の数字を引いた。単純な計算だ。算数さえ習っていればいとも簡単にわかること。

「じゃあ、とりあえずは腹ごしらえでもしましょうか」

「そうだな」

「私のおごりね。お疲れ様、キョン」

まだまだこれから疲れることは残っているんだろうがな。
俺は、既に懐かしいとすら思える、ハルヒのとなえた日本国民の義務を思い浮かべた。全国一斉七夕デー。

今は、三年前の七月七日だ。



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