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コンビニ到着


しかし暑いな、と呟くと、ほんとにね、と名前が頷いた。
お互い、着ている服は冬用制服だ。夏服よりも通気性の悪い、なのに冬場はたいして暖かくもないこの制服は、最高に中途半端だ。ポリエステルを開発した人が悪いわけではないのだが、心の中でほんの少しだけ苛立ちを覚えてしまう。
女子の制服もポリエステル、なんだろうな。スカートなぶん俺より涼しいには違いないだろうが、それでも十分暑そうだ。髪の毛も首筋に張り付いて鬱陶しそうだし。

「ほんと、暑い……」

うわごとのように呟いた名前を横目で見ながら、俺はふと考えてみた。だいぶ頭の中は落ち着いてきたように思う。制服やポリエステルについて考えている時点でだいぶ頭が回ってきたということが窺えるのだが、多分落ち着いた理由の大半は、隣にいるこいつの存在だろう。

「キョンはさあ」

「なんだ?」

「冬と夏、どっちが好き?夏はよく文句を言ってたように思うけど」

突然何を聞いてくるのか。
場の空気を和まそうとしたのか、それとも本当に気になったから、頭の中にぱっと浮かんだから聞いてきたのかはわからないが、とりあえずは考えてみることにする。そうだなあ。もともと俺は、冬の寒さに凍えながら春を待つよりは、夏の暑さにぶちぶちと文句をつけながら団扇でも煽いでいるほうが好きだ。それに、若いうちは、いやでも夏に思い出が増えるだろう。実際、名前と過ごした夏は、様々な思い出で埋め尽くされた。
たいていは疲労したり脱力したり呆れたり、のマイナス面ばかりを感じていたようにも思えるが、過ぎてしまえばいい経験だったかな、と思えるほどには、俺は楽しんでいたらしい。それを簡潔にまとめて伝えると、名前は、そっか、よかったね、と言って微笑んだ。
夏をこうして過ごすことができて、残すところは冬だが、冬は冬でイベント要素が盛りだくさんなんだよな、考えてみると。本来ならば今頃喰っているはずだった鍋の味を考えつつ、十五分ばかり道を下る。それからようやく、目当ての明かりが見えてきた。この悪夢のような坂を下る途中、たまに買い食いするコンビニエンスストア。このコンビニがあるということは、少なくとも、今の時間軸がここ最近のものである、ということが窺える。店ができる以前でも、退店した以後の時間でもないようだからな。

「あ」

「どしたの?」

「そう言えば今金を持っていないんだった」

ことを、思い出したのさ。
鞄はあの通り学校に置いてきたままだし、ポケットの中にはほぼお守り代わりと化した百円玉が一枚と十円玉が二枚ほど内ポケットに入っているだけ。名前はあのとき着替えたばかりだから持っているはずがないし、と思いつつ、飲み物を買えないことにげんなりしていると、名前が、私持ってるよ、とつとめて明るく声を上げた。



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