恐怖に痺れる
今度こそ避けることはできないと唇を噛んだ、そのときだった。
ピリリリリ、と小さな音がして、朝比奈さんが残念そうに銃を下ろす。「時間です。行かなくちゃ」どこかその声は嬉しそうにも聞こえた。
「今回は、こういう運命だったのね。恐らくまだ、名前ちゃんに会う機会もあるでしょう。きっとそのたび、私はあなたを殺そうとするわ。逃げてもいい。だけど覚えておいてね、私たちの時代の未来人は、あなたを脅威としている――」
その瞬間目の前が光の膜を張ったように真白になって、体から力が抜けた私の脚はかくんと折れる。尻が地面にぶつかり、痛みに目を瞬かせると、次第に視界が晴れてきた。
「…朝比奈、さん?」
そこにはもう誰もいない。
時間が来ると強制的に帰らされるのかな、なんて、殺されかけたにも関わらずそんなどうでもいいことを考える自分の神経の図太さに、少し笑った。
立ち上がり、体についた埃を払う。頬の血は止まっていた。…キョンを、追いかけなければ。方向音痴の私では、きっと学校までたどり着けないだろうから。
『今の時代の私たちにとって、世界の崩壊の鍵を握っている、『脅威』の存在として危険人物に指定されている――』
私って、ただの異世界人じゃなかったっけ。世界の鍵を握ってるって、どこぞのキョンじゃないんだから。あ、いや、ただの異世界人だからだろうか。未来を喋る危険性があるから、『脅威』なんだろうか。
けれど、そんなわけが無い。私はそこまでヘマはしない、はず。おまけにちょろっと未来を喋るだけの人間にそこまで脅威があるだろうか――いや、考えても答えは出てこない。頭の中がパンクしそうだ。
『僕たちの未来を知っているあなたは、恐らく彼女達にとっての最大の危険因子です』
危険は『危険』。ただ、それが『脅威』に繋がるだろうか――?
考えながら、泣きそうだった。近くにいたみくるちゃんが、たった数年、少しの年月を置いただけで、あんなにも冷たい笑顔を浮かべれるようになるんだと。
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