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頬を流れたもの


テレビドラマでは「わーカッコイー、ドカンとぶちかましてみたいね」なんて思っていたものでも、実際自分に向けられると勝手が違うわけである。
目をぱちくりさせた私に朝比奈さんは悲しそうに笑って、ただ一言、「避けないで」と言った。それは無茶な注文です。

「あの、朝比奈さん。私の認識違いという可能性を持って聞きます。それは…、なんですか?」

「見ての通り、銃です。ただし、この時代のものとは構造からして違うから、高性能ですけどね。サイレンサーなしでも音がしません、空薬莢も落ちません」

ていうことは、えーと。エアガンってやつですか。

「この時代のエアガンの約5倍の威力と言っても過言では無いでしょうね」

少し大人びてしまった笑顔が似つかわしくない。
その手の中のものと、朝比奈さんの笑顔。全く関連性の無いように見えるものが、今は一丸となって私を向いていた。

「…ごめんなさい。大人しく当たって。わたし、そこまで銃の腕はよくないの」

「心からお断りさせていただきます……!」

カチンと軽い音がして、再び銃口が私の頭を狙う。うそ、なんかよくわかんないけど、さすが高性能。はやい!
シュパンと音がして、私の頬を何かがかすめていった。その部分だけ妙にあったかくて、恐る恐る触れてみれば、指先に赤い色がつく。

「朝、比奈さん」

「みくるって呼んでくれていいよ。昔はそう呼んでいたでしょう?」

「………本気で、」

本気で、私に当てるつもりなの。
かくかくと脚が震えて、それを見た朝比奈さんは今度は申し訳なさそうに俯いた。

「ごめんなさい。今の私にはこれしか言えないの。…名前ちゃん、あなたはね。私たち…私のいる時代にとって、世界の崩壊の鍵を握っている、『脅威』の存在として危険人物に指定されているのよ。あなたと同じ時代にいる私は、ただ上司に言われるままに行動をしていたけれど…」

朝比奈さんの言っている言葉が右から左に抜けていく。
どうやって逃げよう、どうやって止めよう、キョン、と、ひたすら頭の中で叫んだ。

「今の私は全て自分の意思で動ける。だからこれも、私の意思です。――名前ちゃん、あなたがいると、世界が壊れてしまうんです。だから………」

再び、銃口が私を向いた。



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あきゅろす。
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