頭上を通り抜けていく
「さて。立ち話もなんだし………」
朝比奈さん(キョンに倣って『大』とつけるべきだろうか)がそう言ってベンチを指差す。
言外に座れ、と言われているようだったので、静かに腰を下ろす。
「朝比奈さん、時間はいいんですか?」
「ああ、いいんです。時間が無いのは本当だけどね、多少の時間なら」
本当に『すぐ済む話』なのかな。
にこにこと、笑っているけどどこか…なんだろう、落ち着かない、どこか冷たさを感じる笑顔に、私は一瞬震えた。今は夏で、多少の湿度と熱気が肌の表皮を撫でていくのに。
朝比奈さんはふいに空を見上げて、息を吐いた。憂いを帯びた表情に私までなんだか悲しくなってくる。もしかしてお話って、相談ごと?
(古泉くんの言葉で朝比奈さんを一瞬疑いかけたけど…私、最悪だな……)
しょんぼりして肩を落とせば、顔を上げていた朝比奈さんがこちらを向いた。
「…すぐ済むの。お願い。名前ちゃん、目を………、瞑ってて、くれない?」
「目…、ですか?」
ドッキリサプライズですか?
朝比奈さんのしたいことにめっきり見当がつかず、首をかしげながらも従うことにした。「はい」と呟いて目を瞑り、俯く。
「ありがとう、名前ちゃん――――……、」
「はい…、?」
「――ごめんなさい」
え。
反射的に目を開けてしまった。こちらこそごめんなさい、と言おうとした私の口は開いたままの中途半端な形で固まる。それから神経という神経が逃げろと叫び、本能に忠実に私は動いた。頭を守るように体を折ると、そのわずかコンマ1秒後に頭上を静かに何かが通り過ぎていく。
「……、はぁ…っ!?」
そのままベンチから腰を上げて、走って距離を開けた。
「…」
無表情の朝比奈さんが、テレビドラマで見るような小型の拳銃を右手に携え、私を見ている。
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