暗転使い放題
「うんって言ってくれないと困ります」という類を見ない頼み方に、しかしそれでも俺は折れてしまうのだった。
ドラえもんのような机の引き出しから四次元へゴー、ということは無く、朝比奈さんに言われたとおりに目を閉じ、肩の力を抜く。背後から柔らかな気配と吐息がした。
「キョンくん……ごめんね」
一瞬のときめきの後、すぐに嫌な予感がして俺は目を開こうと、した瞬間に暗転。しまったと思う余裕すら無かった。
というわけで実況リポーター変更してこの私めが…じゃなくて。
小説ではどうしてキョンを気絶させたのか、その手段は明確に記されてはいなかったはず。目の前でそれを見てしまった私は、詳しく説明する余裕も無く固まる。
「…名前ちゃん……」
「はっ、はひ」
思わず変な声が出てしまった。『私とあなたは共犯よ』みたいな、火サスのテーマソングが頭の中を流れる。けれど現実にはそんなことは無く、真剣な表情のみくるちゃんが立っているだけだった。
「…みくるちゃん?」
なんだか今にも泣きそうな顔。
みくるちゃんは笑っている顔が一番かわいい。どうしたの、と声をかけようとすると、手をぎゅっと握られた。あの、嬉しいんですけど、横でのびてるキョンが気になるといいますか、ええ。
「…名前ちゃん、気をつけて」
「え?」
「今回、キョンくんと名前ちゃんを三年前に送るよう命令をされたの。けど、名前ちゃんに対する対応が……、ああ…、ごめんなさい、禁則事項なの。けど、おねがい、気をつけて」
気をつけるって、何に。
ふと頭の中に古泉くんの言葉が甦る。
『僕たちの未来を知っているあなたは、恐らく彼女達にとっての最大の危険因子です。』
『その場合、どうなるか。…想像はつきますか?』
私はみくるちゃんの手を握り返し、こくこくと頷く。
ホッとした様子で微笑んだみくるちゃんは、次に私に椅子に座るよう指示した。
私も数秒後にキョンのようになるのか――と考えてる間に、暗転。
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