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ねがいごと


ベガとアルタイル宛、しかも二十五年後と十六年後という条件付きの世にも珍しい短冊を片手に、俺は途方に暮れていた――というわけでもなく、いちいちこういったことに無駄に労力を使うのもたるいので、『金くれ』と『犬を洗えそうな庭付きの一戸建てをよこせ』と、なんとも自分主義なことを書いておいた。
ハルヒも自分主義で『世界があたしを中心に回るようにせよ』、『地球の自転を逆回転にしてほしい』…後者はいったい何を目当てとして言っているんだか。
朝比奈さんは自分主義というよりは小さな子供の無邪気なお願いごとのように、『お裁縫がうまくなりますように』、『お料理が上手になりますように』…なんとも愛らしい。
長門は『調和』、『変革』…まあ、あえて何も言うまい。
古泉は『世界平和』、『家内安全』…どこぞの願いごとマニュアルだって、もっと上手に書くだろうよ。それにしてもお前、意外に字汚いな。
名前は、

「…おい、どうしたんだ?願いごとは無いのか?」

「…………」

声が聞こえていないとでも言うように、ポーッとしている。
熱でもあるのかと額に手を伸ばせば、殊更ビクンと震えて顔を上げた。「あ、キョン?何してんの?」…こいつ、今の今まで俺がいることに気づいていなかったのか。

「熱は、無いみたいだな。どうしたんだ」

「や、…別に………。願いごと、何にしようかなーって」

「なあに、名前。決まってないの?」

ハルヒが名前の肩に腕を乗せ、真白の短冊を睨みつける。
このまま放っておけば「あたしが決めてあげるわよ」なんて身勝手も甚だしいことくらいしか言いそうに無かったので、俺は皆を参考にすればいいじゃないか、と言う。ハルヒを除く。

「んー………、でも………」

歯切れ悪く呟いた名前は、ぐるりとSOS団員を見渡した。それから少し笑顔を作って、首を傾ける。何となくその瞬間、俺は名前が何を思ったのかわかってしまった。
そして、名前の元気が無かった理由も。つまり、俺たちがこれから何をするのか知っているあいつは、既に願いごとを考えていたのだ。それでも決まらないから、あんなに難しい表情をしていた、と。…多分こんなところだろう?

「ずっと願っていたことが叶ったばっかで、何を願えばいいのかわからないんだよ」

退屈な世界から、面白い世界へ――面白いかどうかはわからないが。ずっと願っていたこと。それが叶っているんだからと随分と優しい顔で言うので、少し邪気を抜かれた。



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