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十七日の後悔


「なーんかさあ、いきなり苗字さん離れするって言い出したんだよ」

……毎度のことながら意味がわからない。
ちょうどSHRが始まる数分前、谷口がトイレに出ている間に国木田に聞いてみた。あいつ、名前のことが好きだったんじゃないのかと。それに対する国木田の答えがさっきのアレである。もう一度言おう。毎度のことながら意味がわからない。

「最近彼女、よく呼び出されてるらしいしね。俺は名前の隣にいる資格はないとかかんとか言って、今までやめてたナンパも再開したみたいだし」

それで光陽園の女子が釣れたというわけか。
溜息を吐く俺に、お疲れ様、と国木田が言う。本当にお疲れだぜ。こんな時間になっても名前は来ないし、ハルヒは浮かれ気分でさっきからずっと何かを書いているし。ていうか、あいつよく呼び出されてるのかよ。昨日のが初めてじゃないのか。

「まあ、いい兆候なんじゃない?僕も、彼女は望みないなーって思ってたし」

「どうしてだよ」

望みがあるとかないとか、そんなもんわからないだろう。それに、昨日告白してきた男よりは、国木田や谷口のほうがずっと近い存在だ。何かそういいきれる確固たる証拠でもあるのかと問い詰めると、国木田は首を傾けた。

「なに言ってるの、キョン。谷口はキョンのことを――」

「思いついたわっ!!!」

国木田の言葉を大声量でかき消したハルヒが、俺の襟首を掴んで例の如く後ろに引っ張った。
ガツンと大きな音がして俺は机の角に頭をぶつける。昇天するかと思った。ハルヒは熱く意気込み、クリスマスイブの鍋をどうするかを口にしている。闇鍋だけは勘弁してくれよ。
国木田はその様子を見て肩をすくめ、席へと戻っていった。あ。話の続き、聞きたかったのに。席に着いた国木田がこちらを見て、口パクで「また後で」と言うのを確認してから俺はハルヒの話に耳を傾けた。
それから数分後、谷口と担任岡部が入ってきてから、俺はようやく名前が欠席をしたことに気付いた。


岡部に聞いてみたが、どうやら熱が出たらしい。お前知らなかったのか、と言われて思わずうろたえてしまった。俺のオフクロから連絡があったので、間違いはないのだろう。もしや知恵熱だろうかとか、俺が考えさせてしまったのだろうかとか、勝手なことを考えて授業をやり過ごす。
放課後も特にこれと言って目立ったことはなく、昨日の話し合いの延長みたいなものだった。国木田に話の続きを聞き忘れたことに気付いたのは、校門から出た後だった。

隣に誰も居ない帰路で、俺は携帯を開く。メールも電話もなし。新規メールプレビューを開くが、メッセージを打ちかけて、やめた。ごめん?それとも、大丈夫か?そのどちらも、俺が今言っていいようなものじゃないだろう。言葉で、しかもメールでなんて邪道だ。不誠実だ。家に帰ったら、謝ろう。部屋に入って土下座して、あんなこと言ってごめんって。
しかし、家に帰ったが名前の部屋はかたく閉ざされていて、オフクロにも入るなと釘を刺された。夕食時に、おかゆの入った一人用鍋をオフクロが運んでいくのを見ながら、俺はなんとも言えない気持ちになって。

そして、何事もなく過ぎた十七日。夜を跨いでやってきた十八日。

俺は名前に言った言葉を、今以上に後悔することになる。



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あきゅろす。
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