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イブの予定は


結局その日、俺はばつが悪くて名前と顔を合わすこともできず、夕食の準備ができても下に降りなかったし何か言いたげに部屋の前までやってきて、帰る名前を呼び止めもしなかった。
そして翌朝、つまり今日、俺は逃げるようにして家を出てきた。あんたどうしたの、と問いかけてくる母親に適当な理由をつけておいたから、それは名前にも伝わっているはずだろう。顔を合わせられない理由、そんなのもうおわかりのはずだ。俺がいつぞやにこの世界に飽きたとか思っても俺は絶対に離さん云々を言っておきながら元の世界に居たほうが云々、と抜かしたからである。もしこの世界に奇跡が起きて某猫型ロボットが現れてくれるのならば、俺はすぐにタイムマシンに乗ってあの時の俺にジャーマンスープレックスをかましてやるつもりだ。

まあそこらへんのくだりまで言う必要はないし、異世界云々の話をするわけにもいかないので、ハルヒが鍋を提案したくだりで話を止めると、隣を歩いていた谷口はなんともいえない表情を浮かべた。

「クリスマスパーティねえ。涼宮のやりそうなことだな。部室で鍋大会か。ま、マジで教師どもには見つからないようにしろよ。また面倒なことになるぜ」

言われなくても見つからないようにするつもりだが、いざ見つかったら全責任をハルヒに負わせて俺は逃げるつもりである。

「なんならお前も来るか?」

半分同情半分社交辞令的なものでそう言うと、谷口は意外にも首を横に振った。国木田、鶴屋さんというトリオは人数合わせという意味でハルヒに覚えられているから気にする必要もないと思ったんだが。

「いやあ悪いなあ、キョン。俺はその日、しょぼい鍋なんぞを喰い散らかすヒマはねえんだ。うけけ」

ぞっとしない笑い声だ。

「あのなあ、クリスマスイブに変な仲間で集まって鍋をつつきあうなんて、モテない連中のするこった。残念だが、俺はもうそっち側の男じゃなくなっちまった」

正直な話SOS団の人間は俺を除いて皆モテると思うのだが。
というより、まさかお前。

「そのまさかってヤツだと思ってくれ。俺のスケジュール帳の二十四日には赤いハートマークが刻まれているぜ。いや悪い。マジで悪い。ほんと、すまねえーなあー」

うぜええええ!と思う傍ら落ち込む俺が居る。俺がハルヒ率いるSOS団の奴らと不可解な遊びをしている間に、谷口に彼女が出来ていようとは。決して羨ましいわけではないが妙に悔しい。
相手は誰だ、と聞こうとしたのだが、それ以前に国木田と三人で集まって昼食を取っていたときのことを思い出した。
……こいつは、名前が好きなんじゃなかったのだろうか。
それを聞くのもなんだか憚られて、「相手は誰だ?」と呟く。

「光陽園女子の一年さ。無難なとこだろ?」

山の下にある駅前の女子高だ。お嬢様学校だと思っていたのだが、アホの谷口のようなアホと付き合うお嬢様もいたんだな。いや、お嬢様なりの好奇心ってやつだろうか。それにしてもこんなヤツに…。

「いいじゃねえかよ。お前には涼宮がいるんだろ?鍋か……。あいつの手料理?鍋に手料理もへったくれもないような気もするが、腹は膨れるだろ。うらやましいなあ、キョン。涼宮だけじゃ飽き足らず名前にまで手を出すなよ」

自慢しているのにどこか寂しそうに聞こえるのは俺の気のせいなのだろうか。

「さあ、どこをどう巡るか、そろそろ段取りを決めねえとなあ。悩むぜ」

「たにぐ、」

「……俺は!吹っ切れるん!だー!」

いきなり叫んだ谷口に俺がびびり、肩を震わせている間に、俺たちは校門を通り抜けていた。



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