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からまる糸


「キョン、私、告白されちゃった」

「………は?」

言われた言葉を頭の中で理解するのに数秒要した。
思わず立ち止まった俺に、名前もつられたのか立ち止まる。引っ張ったままの手首からゆっくり力が抜けて、俺たちの間を白い息がそうっと抜けていった。
なにをいってるんだろう、こいつは。そんなことを考えてしまう。かあっと頭の中に血が上ってきて、そして急激に下っていった。ひんやりと脳髄が冷えるようななにかが駆け抜けた後、俺の頭に残るのは激情。

「…だれ、に」

「…………」

名前が口にしたのは、俺の知らない名前。
今日の団活に遅れたのはそれが原因らしい。教室で日直の仕事をしていたら呼び出されたのだと。返事はすぐにとは言わないけれど、クリスマスまでに答えは欲しいと。
変な話だ。俺はそんなことを漠然と考えた。すぐに返事はいらない、と言っておきながらあと一週間しか猶予を与えない。ああ、でも、そんなもんなんだろうか。俺はそういった恋愛ごとにはからっきしだから、いまいち話題についていけない。
俺がどんな表情を浮かべていたのかはわからなかったが、少なくとも名前の眉が寄せられたことから、あまりいい顔はしてなかったのだと思う。

「……どうするんだよ」

「どうするって」

「返事」

俺自身がびっくりするくらい、低い声が出た。
名前は困ったように微笑んで、明日断るよ、と言う。まあ、そうだろうな。俺だってわかっていたさ。予定が入っていないとハルヒに言った時点で決めたに違いない。

「……どうして、断るんだ?」

やっぱりクリスマス前になると彼女が欲しくなるものなのか、と思いながら、俺は全く持って言うはずもないことを口走っていた。
名前はぎょっとしたように顔を上げ、どうして、って、と言葉を濁す。わからないわけじゃない。少なくとも名前の口ぶりでは、初対面ではないが仲が特別良い、というわけじゃなさそうだ。だけど、そんなのわからないじゃないか。付き合ってみないと。もしかしたら相性が良いかもしれない、あわよくば結婚までいってしまうかもしれない。その可能性を摘み取るのだ。簡単に決めてしまっていいことなのか。

「……なんで、そんなこと、言うの」

やや震えている声を聞き入れながら、俺も俺自身に問いかけていた。こんなこと言って何になる。問いかけておきながら、わかっていた。これはその男に対するただの嫉妬だと。
俺が出来ない告白を、いとも簡単にしてしまえる。そして名前は、それを簡単に断ってみせる。簡単じゃないかもしれない。けれど、俺はもしかすると、その男に自分を重ねていたのかもしれない。自分が告白して断られるときのシミュレーションを、無意識のうちにしていたのかもしれない。いやだ。脳の片隅で何かが叫ぶ。これ以上ここに留まっていたら、奇妙なことを口走ってしまいそうだ。

「……元の世界にいたほうが、お前が幸せでいれたかもしれないな」

思った直後にそんなことを口にして、俺は名前の顔も見ず、走り出していた。



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あきゅろす。
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