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冬の帰路


「部室で鍋、かあ。なんかいいよね、そういうの。まさに青春だよ」

おっさんかお前は。
帰りの道、肩を並べて歩きながら、ぽつりと名前が呟いた。結局あの後、どこかの店を予約しようと言う古泉にハルヒが制止をかけ、部室でやると言い出したのだ。教師に見つかっても自らの手腕で素晴らしい料理を作り、黙らせてやるのだと。
教師軍は日ごろハルヒの奇行を見て、苦言を一切耳に入れてくれないことを学んでいるため、その苦言を俺を通して伝えようとするのだからたまらない。俺はハルヒ専用のポストでも郵便局でもなんでもないのだ。もし鍋をしているときに教師が入ってくれば、後で呼び出されるのは間違いなく俺だろう。ハルヒもかもしれんが。
ちなみに俺とハルヒ以外の人間が呼び出されたところを俺はまだ見ていない。朝比奈さんも長門も古泉も名前も、傍から見ると常識人で優秀だからだろう。理不尽だ。俺も数少ないSOS団の良心だというのに。

「なんだかんだでキョンも楽しんでるからいいじゃんか」

「……そうか?」

吐き出した息は真っ白で、視界を蒸気が遮る。俺が、楽しんでいる?まあハルヒが引き起こす事件やそれに伴いやってくる衝撃にも慣れてきたところだが、決して楽しんでいるとは思えない。
そりゃ朝比奈さんの麗しいお姿や、長門の人間らしく変わってきた雰囲気や、最近は結構ねばるようになってきた古泉とのボードゲームも、楽しくないといえば嘘になるが。
賛同しかねて口を手で覆い考えていると、名前がぼうっと空を見上げて寂しそうに笑った。

「…名前?」

俺が呼びかけるのとほぼ同時に、名前がぱふん、と小さな音を立てて両手を合わせる。

「高校生のうちは遊んでおかなきゃね。しかられるのもいい経験だし。こそこそ悪いことするのだって、なんだかんだで楽しいよ。ねっ?」

諭すように言われたものだから、俺は曖昧に笑ってそうだな、と呟いた。冬場の帰路は非常に寒く、指先がかたかたと震える。ふらふらとおぼつかない足取りで歩いている名前の手首を引き寄せると、こてん、と力なく寄りかかってきた。

「どうした?」

「や、寒い、だけ」

「………」

今、手を握っても、いいのだろうか。
あいているほうの手をポケットの中でさ迷わせる。そんなとき、囁くように名前が言った。



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