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カニの成長過程


一方の名前は、特別美人、というわけではない。顔のつくりが悪いわけではないし、寧ろいいほうだ。可愛い、と言っても間違いではない。うちのSOS団の中ではあまり目立たないほうかもしれないが、それにしたって可愛いもんは可愛い。身内の欲目という言い方だとおかしい気もするが、そんなもんだ。俺は朝比奈さんを可愛いと思うが、そういうんじゃなくて、ああ言いたいことがまとまらないので意図を汲み取っていただけるとこれ幸いである。

「…いやあ、名前さんもよくお似合いですね。朝比奈さんはサンタさんで、名前さんは……」

トナカイ、ですか。

古泉の言う言葉を必死に思考回路から排除しようと試みる。考えるな思い出すな想像するな。顔に熱がたまって仕方ない。こんな反応をしてしまえば、俺が名前を好きだといとも簡単にバレてしまう。必死になんでもないふりを装うが、果たして成功していたか。

「セットで買うのが安かったのよ。安心しなさい、ちゃーんと皆の分も用意してるから!フル装着はできないけど、被り物とかね、ほら」

ハルヒは嬉しそうに言いながら紙袋から被り物のトナカイや馬(何故)、サンタ帽を取り出す。それを古泉や俺の頭にのせていきつつ、自分も被るという器用なことをしてみせた。
部屋の隅っこで丸まっていたトナカイ、名前は、朝比奈さんの装いと似たような丈の短いショートパンツを睨みつけていた。
朝比奈さんのはスカートだから、まあ下着が見える心配はないんじゃないのか。……あ、見えてない。本当に見えてないから。

「これはサンタ&トナカイセットだったんだけど、サンタ&クリスマスを心待ちにしてる子供セットもあったのよ!パジャマなんだけどね。それじゃ面白味がないでしょ」

コスプレにそこまで意気込んでどうする。
半ば呆れている俺に、朝比奈さんは力なく微笑んだ。名前は悟りの境地に達したらしく、もうなんでもないように立ち上がって長門とアイコンタクトを交わしている。

「まあいいわ。でさ、キョン。クリスマスパーティを盛大にやるのはいいとして、今年は思いつくのが遅かったからキリストの誕生日だけだけど、来年は釈迦とマホメットの誕生会もしてやんないとね。でないと不公平だわ」

不公平だのなんだのと言うのはいいのだが、やんないとね、ってお前すごい上目線だな。もうちょっと偉人たちを敬え。あと、マニ教ゾロアスター教も忘れるなよ。
もしこれを神々が見ているのだとすれば、俺は合掌してお祈りをするので、態度がデカいと怒るのはハルヒだけにしてください。

「何がいい?鍋?すき焼き?カニはNGよ、あたしアレ苦手なの。殻から身をほじくるのがイライラすんの。どうしてカニって殻も食べられるようになってないのかしらね。進化の過程でもうちょっと学ばなかったのかって言いたいわ」

進化の過程であらゆるものを学んだから甲羅がついたんだろうよ。自然の流れを人間本位に考えるな。奴らはお前に食べられるために育ったわけではない。
席に着いた俺の横で、名前が「かに…」と小さく寂しそうに呟くのが聞こえた。……食べたかったのか。



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