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不埒な視線?


さて俺は目の前のこの状況にどんな言葉を当てればいいと思うだろうか。思いついた人がいれば是非教えて欲しい。床と壮絶なぶつかりげいこを果たした俺の視界三百六十度には、色鮮やかな赤と肌色が映っているんだがね。

「ひえっ!?」

「こら、キョン!覗くなっ!」

「ふわ、あふっ」

俺は諸賢及び諸々の神に誓って足しか見えなかったと宣言する。本当だ。滑らかそうな足、多分太ももくらいなんだろうが、そこしか見えなかった。本当だ。俺のこの必死さでもうおわかりであろうが、俺が倒れたのは床であり、当然顔は天井を向くことになってしまい、場所が悪かったのか運が悪かったのかそのどちらもが作用したのかはわからないが朝比奈さんのご無体な姿がすっかり俺の網膜に焼き付けられてしまったというわけだ。でも誓う、足しか見えていない。

「いつまで寝てんのよ!起きなさいよっ!まったくこのエロキョン!みくるちゃんのパンツ覗こうとするなんて、あんたには二億五千六百年早いわ!さてはワザとね、ワザとなんでしょ」

ハルヒの半ば理不尽な言葉にどう対応すべきか考えながら、俺はよっこいせと体を起き上がらせる。いっそ視覚の暴力とも思えるほど麗しい朝比奈さんは、ふへえ、なんて愛らしい溜息をつきながら丈の短い裾を手で押さえていた。古泉がありきたりかつストレートな賛辞を送っているのを見ながら、俺はきょろりと視線をめぐらせる。朝比奈さんがこの姿ならば、追って然るべきヤツがいるだろう。

いた。

パーティ用の三角帽を被って読書を続けている長門の横、窓際の小さなスペースに、雪だるまのごとく座り込んでじいっとしている少女が。
思わず目を凝らしてしまった。長門はなんの反応もしない。ハルヒは鼻息荒く朝比奈さんに変質者への対応を諭しているし、古泉はそれをニコニコと笑いながら見ているだけだ。
俺はゆっくり机に手をつき、身を乗り出した。

「………」

「………」

数秒間の見詰め合いの後、先に視線をそらしたのは俺だ。そらしたのではない。自分の意思でそらしたのではない。いや、勿論ハルヒに顔を掴まれたとかそんなのではなく、誰の力を借りたわけでもなく俺は視線をそらしたわけだが、いわゆる反射というやつで、俺が視線をそらしたくてそらしたわけではない。ということを理解していただきたい。
なんだあの可愛い生き物。

「あっ、キョン!あんたまさか、名前にまで狼藉を働くわけじゃないでしょうね!言っとくけどね、あんたには六億二千四百年早いの!その不埒な視線をどっかにやりなさい!」

さっきよりえらい増えてるぞ、なんて言葉を吐いている余裕もなく、俺は言われたとおり視線を名前から思い切りそらし、逆にハルヒを困惑させた。

「何よ、その態度!名前の姿を見てもなんとも思わないわけ?」

おい、見るなと言ったのはお前だろうが。
と言ってやりたいのは山々なのだが、俺は喉に巨大モチが詰まったかのような息苦しさと圧迫感でまともに話すことすら困難だった。何度でも言わせてもらおう。朝比奈さんは麗しい。この学校のマドンナと言っても誰も異論を唱えない。それくらい麗しい。目の保養と言って差し支えない。



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