私有地の竹について
笹の葉を引きずってよろよろと左右に揺れているのは間違いもなく名前である。
あいつ何してんだ、と思う暇も無く、ハルヒのカラカラと元気な声が響く。
「めんごめんご。遅れてごめんね」
謝る必要など小指の甘皮ほども無いさ。待っていなかったからな。名前なら待っていたと言ってもいいがな。
それにしてもその竹、一体どうするつもりなのか。聞いてから後悔した。教室で明らかにわかりやすいことを喋っていたではないか。
「短冊を吊るすに決まってるじゃないの」
ホワイ、なぜ?毎度ながらハルヒの思考は謎だ。したいなら自分ですればいい、俺はにこやかに手を振ってそれを見ていてやるさ。
「意味はないけど。久しぶりにやってみたくなったのよ。願いごと吊るし。だって今日は七夕だもんね」
「…………」
俺はハルヒの顔から視線をずらし、名前へと向けた。竹を手近なところに置き、パイプ椅子に座る。朝比奈さんからお茶をもらい、それを静かにすすっている。いつもとたいして違いは無いが、やはり元気が無い。
「キョン、聞いてるの?」
「…どこから持ってきたんだ?」
名前がこちらを見ないので、ハルヒに視線を戻してかねての質問をぶつけた。しかし返って来た返答はこれまた仰天もので、私有地から取ってきたそうじゃないか。名前、ひとことでいい。止めろ。
ハルヒはわけのわからん理屈を言うと、朝比奈さんにかゆみ止めを塗ってもらっているようだった。恐らくやぶ蚊たちは私有地の竹は取るなと忠告したんだろうよ。
薬を塗ってもらって上機嫌のハルヒが団長机に上がり、どこからともなく短冊を取り出して満天の笑顔を作る。
「さあ、願い事を書きなさい!」
ようやく顔を上げた名前は、無表情だった。
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