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ぶつかりげいこ


随分と古泉の意見を押し付けられているような気もするが。あくまでその意見は、古泉、ひいては機関サイドの理屈ではないのか。

「そうです。でも、決して悪いことではないでしょう?あなたは数時間刻みで《神人》を暴れさせている涼宮さんを見たいのですか?僕が言うのも何ですが、決していい趣味とは言えませんね」

そんな趣味は断じて持ち合わせていないし、言わせてもらうが俺はただの人間であって、ハルヒがあのバカでかい空間でバカでかい生き物を発生させていようと関係はないのだ。そんなことを根底で考えている俺がいる。
それは口に出さず、俺はただ、そんな趣味はないし、これから持つつもりはない、と断言するに留まった。

「それを聞いて安心ですよ。変化と言えば、涼宮さんだけでなく僕たちだって変化しています。あなたも僕も、朝比奈さんもね。たぶん長門さんにも。涼宮さんのそばにいれば、誰だって多少なりとも考え方が変わりますよ」

「名前はどうした」

「彼女は、」

口を開いた古泉が困ったように微笑んだ。
腑抜けたニヤケ面よりはそっちのほうがずっと女受けがいいだろう。彼女は、の次に続く言葉はどうしたというのだ。首を傾けて古泉の言葉の続きを待ったが、珍しく何かを考えている様子ではっきりしない。

「うーん」

これまた珍しく常態で言葉を吐いた古泉は、答えを求めるように俺を見た。俺を見るな。お前が言いかけたことなんだからお前が責任を取って答えろ。

「そうですね……。今僕は、僕たちは涼宮さんに影響を受けている、というようなことを言ったでしょう?それは名前さんには当てはまらない、と言いますか。彼女は彼女で、涼宮さんのそばにいても考え方を変えることはない。寧ろ、言い方をもっと変えれば、涼宮さんに影響を与えている、とも言えます」

「はあ?」

……そうだろうか?
あいにく俺は、俺自身がハルヒから影響を受けたとは思っていないし、ハルヒも名前に影響を受けているとは考えにくい。まあ、こんなことを思っている時点で俺には観察眼が備わっておらず、古泉の言うことのほうが信憑性はあるのだが、認めたくない気持ちがどうしても生じる。
苛立ち紛れに視線をそらし、中空を見ながら考えた。それにしても、長門が少しずつだが変化してきているという事実に、古泉は気付いていたんだな。それほどまでに、長門も変化しているという真実。やはりハルヒが影響を与えているんだろうか?いや、ハルヒだけじゃない。長門は長門なりに色んなことを学んで、それを自分の意思で反映しようとしている。そうしようと思ったのは、決してハルヒに感化されたから、という理由だけじゃないはずだ。
俺がそんなことをぼそぼそと考えていると、突然ドアが開いた。勿論ドアに背中を預けていた俺の体も、引かれるままに後ろに倒れる。がちゃんばたーん、というやかましい音がして、俺は重力に従うままに床とぶつかりげいこをすることになった。

「もういいわよ!」

開ける前に言ってほしかった。



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