ハッピープレゼント
「涼宮さーん、お茶入りましたよ」
「ありがと、みくるちゃん」
銭湯に行って風呂上りに腰に手を当てて牛乳を飲むのと同じノリで、ハルヒはぐいっと熱々のハーブティーを飲み干した。時間にしてわずか数十秒。確かハルヒは「とびっきり熱いの」をお願いしてなかったか?これでハルヒが猫舌ではないことは確定したが、どんだけ強い舌なんだ。
とん、と音を立ててカップをテーブルに置き、ハルヒはにんまりと笑顔を浮かべる。いかがわしいあるいはいやらしいことを考えている笑顔だ。半年近い付き合いだし、俺にもだいぶわかるようになってきている。
「とってもおいしかったわ。みくるちゃん、お礼と言っては何だけど、あなたにちょっと早めのプレゼントがあるのよね」
「え、ほんとですか?」
あああ朝比奈さん、そんな容易く期待なんかしちゃいけません。向けられた期待をことごとくへし折るのがハルヒなんです。諦観を極めていた名前の肩をがしりと掴んで、ハルヒは大きく口を開く。
「これ以上の真実はないってくらい本当よ。月が地球の周りを回ってて地球が太陽の周りを回っているくらい本当のことだわ。ガリレイのことを信じなくてもいいけど、あたしの言うことは信じなさい」
何を言う。ガリレオは偉大な人物だぞ。俺はハルヒとガリレオどちらを崇拝するか、と言われたら語尾に被せるくらいの勢いでガリレオだと言うね。
「あ、はははい」
激しくどもりながらもじもじと手をすり合わせる朝比奈さんの横に名前を立たせ、全く状況が理解できていない名前にバッグを持たせた。
「じゃじゃーん!」
幼稚な掛け声と共に、名前が抱えたバッグの中から赤い衣装を引きずり出す。まだバッグの中には何かが入っているようで、名前は重たそうにそれを抱えなおした。
「そ、それは……?」
先ほどの笑顔はどこに放り投げられてしまったのか、すっかり怯えきった表情を浮かべて朝比奈さんは後退った。恐らくは反射なのだろう。ハルヒはにこやかな表情のまま手を伸ばし、衣装を朝比奈さんに押し付ける。
「サンタよ、サンタ。ばっちりでしょ?やっぱこの時期なんだから、季節限定の恰好をしてないと示しがつかないからね。ほら、着替え手伝ってあげる」
「ハルヒ、これは……?」
「それは勿論あんたの分よ。功労賞ってとこね。さっ、着替えなさい!」
バッグを心臓が押し潰れるくらいに押し付けながら、ハルヒは俺たちに視線をよこす。さっさと出て行け、ということなのだろう。無言で古泉を伴い部室から出て行くことにする。名前が着替えるのはどんな服なんだろう。ご無体な衣装だけは勘弁してくれよ。
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