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異世界人の遅刻


「みくるちゃん、あなたはどう?夜更けすぎに雨が雪へと変わる瞬間を見に行こうとかって誰かに誘われてない?ところで今時そんなことをマジな顔で言う奴が本当にいたら殴っちゃっていいわよ」

きっと君は来ない一人きりのクリスマスイブ、ってそれ失恋ソングじゃねえか。ちなみにこのネタが朝比奈さんに通用するのだろうか。いや、しない。彼女が俺たちの世代でもわからないような昔の歌を知っているわけがない。記憶に埋もれたJポップの中からいちいちこんなチョイスをしてくるあたり、ハルヒの性格が窺い知れるな。

「いえ、そ、そうですね。今のところは何も……。ええと、夜更けすぎ……?あ、それよりお茶を……」

うまく話を流した朝比奈さんに、ハルヒはぴっと人差し指を立てて声を上げる。

「とびっきり熱いやつをお願いね。この前のハーブティーってやつがおいしかったわ」

「は、はい!さっそく」

ハルヒから注文されたことが嬉しかったのか、お茶を入れるのがそんなに楽しいのか。俺の知るところではないが、朝比奈さんはきらきらと愛らしい瞳を輝かせてカセットコンロにヤカンをかける。
その様子を一瞥してから、ハルヒは今度は長門に視線を移す。

「有希」

「ない」

「よね」

必要最低限もいいとこだろう、という端的さで会話を終了させ、ハルヒは改めて俺を見た。実に偉そうな、尊大な笑みを浮かべている。

「そういうことで、SOS団クリスマスパーティの開催が全会一致で可決されました。異論や反論があるならパーティ終了後に文書で提出しなさい。見るだけなら見てあげるわよ」

終了後かよ。
まあ、俺たちの予定を聞くまでにハルヒのレベルがアップしたということはたいへん喜ばしいのだが、俺ははたと気付いて手を挙げる。文句があるなら文書で提出しなさいって言ったでしょ、と眉を吊り上げたハルヒに、俺は苦し紛れの一言を吐き出した。

「全会一致じゃない。まだ名前の意見を聞いてないだろう」

「………そうね」

たいへん忌々しそうに目を眇めたハルヒは、キョンのくせにと実に恨みがましい声音で呟いてドアをにらみつけた。まだここに現れていない異世界人の少女は、いったいどんな用事を果たしてきたというのかね。
しかもハルヒパワーか何かはわからんが、ハルヒがドアに視線を移して一分と経たないうちにドアが開いた。もうボロボロの蝶番が痛ましい音を立てている。
入ってきた名前にハルヒが飛びつく。「わぎゃ!」愛らしさというものに欠けている悲鳴を上げた名前がハルヒを抱きとめる。

「名前、あんたクリスマスに予定入ってる?」

「え?」

てっきり「はいってないよ〜」と即答するものだと思っていたから、戸惑ったようなその表情に俺が戸惑った。どうしよう、みたいな顔をしている。けれど昨日、クリスマスはバイトが入らないとかオフクロに言ってなかったっけ。困ったように視線を泳がせてから、まあいっか、と小さく呟くと、名前は首を横に振った。

「予定、入ってないよ」

「やたっ!キョン、ほらねっ!」

ハルヒが嬉しそうに声を上げるが、俺はそんなことに反応している余裕がない。名前の曖昧な態度が、どうにも煮え切らなくて、俺の胸の内が不安に駆られた。



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あきゅろす。
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