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聖夜の用事


「クリスマスイブに予定のある人いる?」

バーン、という音の後にぽーん、という音を立てて鞄を放り投げたハルヒは、開口一番そう言った。
若干「予定なんかあるわけないわよね、あんたたちももうちゃんと解ってるでしょ?」みたいなニュアンスが含まれているような気がして反抗心が湧いてくるが、悲しいかな、予定がある、と言えるような予定がないのが現状だ。
古泉とTRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム。まあ、直訳だが対話型のRPGみたいなもんだ)をやっている最中だった俺はダイスを手に持ったまま固まり、古泉はカードを持ったまま固まっている。朝比奈さんは定番のメイド服姿で電気ストーブの前に鎮座ましましていたし、長門はいつもどおり、SFの新刊ハードカバーを黙々と読んでいた。
それから、名前はまだ来ていない。なんでも用事があるとかで、少し遅れて来るそうだ。
ハルヒは俺の前で仁王立ちすると、戦国武将顔負けの勇ましい顔をした。みおろす、と言えば響きはいいが、みくだす、と言ったほうが正しい感じだ。

「キョン、もちろんあんたは何もないわよね。訊かなくても解るけど、いちおう確認してあげないと悪いような気がするから訊いてあげるわ」

ここで俺が鬱陶しいという感情を覚えてもなんら不自然ではないはずだ。
とりあえず手に持っていたダイスを古泉に手渡し、体ごとハルヒに向ける。すぐに「予定?うん、ない!」と応えてやるような紳士的な態度をこいつごときに取るのも癪なので、嫌味を含めて言った。

「予定があったらどうだってんだ。まずそれを先に言え」

「ってことは、ないのね」

おい俺の質問に答えなさい。
ハルヒはもう用はないとばかりに俺から視線を剥すと、古泉に向かって笑顔を浮かべた。

「古泉くんは?彼女とデートとかするの?」

「そうであったらどれほどいいことでしょう」

今の言い回しなんかイラッとくるな、なんて考えつつ古泉に視線を戻す。掌でころころとダイスを転がした古泉は、実に演技めいた吐息を漏らす。イカサマ臭がプンプンだ。

「幸か不幸か、クリスマス前後の僕のスケジュールはぽっかりと空いています。どうやって過ごそうかと、一人で思い悩んでいたところですよ」

嘘つけお前最初からわかっていただろう!
ついでに今の言葉の補足をしてみよう。わざわざ「クリスマス前後」と言った理由がなんとなく俺にはわかる。もしハルヒがクリスマス前後に前夜祭やら後夜祭やらをやるとしたらその準備をしなければいけない、ということまで考えているに違いない。

「悩むことはないわ。それはとても幸せなことだから」

宗教勧誘のような言い回しをしたハルヒは、今度はエンジェル朝比奈さんに舳先を変えた。



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