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心のツンドラ地帯


谷口はのんきに「じゃあ後で聞くかなー」なんてことを言いながら手をすり合わせた。

「何をだ?」

俺の問いかけに、照れくさそうに笑う。お前がやるな気持ち悪い。
言っちゃおうかな、言わないでおこうかな、と無駄に悩んでいる谷口を放って俺は思考をめぐらせた。そろそろ予備校の心配をし始めた母親の様子を思い出す。俺の期末試験の結果は非常に残念なもので、対して名前は諸手を上げて喜べるような非常に良いものだった。来年…つまり、二年になれば、クラス分けは志望校に沿って行われる。文系理系、国公立または私立と。俺のお粗末な成績では文系かつ私立くらいでないと無理だろうが、あいつなら文系でも理系でも、国公立くらいにはいけそうだな。

(……そしたら、クラスが離れるな……)

ぼんやり考えていると、俺の目の前を指先が横切った。なんだ。横に視線をスライドさせると、谷口がおーい、と言いながら俺の顔を覗きこんでいる。どうやら谷口が心配するくらいには、意識が飛んでいたらしい。

「すまん。で、なんだ?」

「ああ、いや。一応聞いておくが、名前ってクリスマスの予定開いてるか?」

「………」

出たよ忌々しい単語。
さっきも俺にさんざクリスマスという忌々しい行事を忌々しく語らっておきながら、さらに忌々しくも掘り返すというのか。全く忌々しい。十二月十七日の今日、一週間後に行われるイベントは?と言われて終業式と返した俺の少ない抵抗を、少なくともこいつは笑えないだろう。彼女が欲しいと日々叫んでいるような奴だ。
しかし今は、ニヤニヤと笑っていた。まさかこいつ、と考えるも、それより先に質問に答えなければならないという義務感が先立つ。全く、忌々しい。

「知らん。開いてないんじゃないのか」

「………だよな」

谷口はさっきのニヤケ顔はどこに行ったのか、突然寂しそうな笑顔を浮かべて視線を地面に落とす。それから、吹っ切れるんだ、俺は!と突然叫んで、坂を歩いていた生徒の注目を浴びた。

「いきなり何だ」

「べっつにー」

ムカつく返答に拳を振り上げるべきか考え込んでいる俺の頭の中に、ふいに昨日、ハルヒがこぼした発言が甦る。来る二十四日のイベントは、何をするのか。俺はそれを知っていた。
なぜなら、ハルヒが声を大にして言ったからである。



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あきゅろす。
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