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彼女がおもちゃ


名前が、部室に来ない。
来ないのなら俺にまず言うはずだし、いつだって長門や古泉、朝比奈さんに会えることを楽しみにしている名前が無断で休むはずが無いのだ。ハルヒも遅いときたから、おおかた何らかの雑用でもさせられているのだろう。ようやく足の包帯が取れたって言うのに。
詰めチェスをしている古泉に視線を向け、「おい古泉、名前はどうしたんだ?」と聞きかけて、やめた。こいつに聞いても恐らく何も知らないだろう。知ってたらやはりまず俺に言うはずだ。

「言いかけてやめるということは、苗字さんのことですか?」

一体どういう理屈だかは知らないが、なぜか当てられてしまった。
俺は視線をそらし、別に、と呟く。鞄の中から英語の教科書を取り出して広げると、目の前で軽く吹き出す音がした。

「…なんだ」

「いえ、失礼。おもちゃが手元に無い子供のような顔をしていらっしゃるものですから」

「あいつはおもちゃじゃないぞ」

「ただの比喩です」

ああそうかい。
無駄に憎たらしい古泉を無視し、俺はもう一度教科書に目を通した。
しかし英単語が全く頭の中に入ってこない。それどころか一瞬アイアムってなんだっけ、とまで思ってしまった。暑さが脳みそまで侵入してきたようだ。
そんなぐでぐでの俺の心のオアシス、朝比奈さんを見ていると、どうやら数学をやっているようだった。2年の範囲であれば俺に口出しできることは無いだろう。さらに言えば1年の問題でも俺には口出しできない。寧ろ口出しされないとできない。
そんな惨めなことを考えつつ、朝比奈さんと軽い会話をしていると、まるで空気をブチ壊すかのごとくけたたましい音を立てて嵐が突入してきた。




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あきゅろす。
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