日本国民の義務
重い。
何がという質問が上がるだろう。答えは俺の心である。
俺の心は今、鉛のように、いや、東京湾に沈められるコンクリで固められた死体のように重い。
理由は明白だ。期末テストが迫っているからである。
そんな気鬱に沈む俺の背中をツンツンとシャーペンでつつく女がここにひとり。だいたい言い出すことはたいていまともじゃないので、俺の心も気鬱からさらに暗鬱へと変わるものだ。
「今日は何の日か知ってる?」
やはりな。俺はその質問にまともに答える気などさらさら無く、適当に右手でシャーペンを回しつつ投げやりに言った。
「お前の誕生日か?」
「ちがうわよ」
即答。どうやら続きを待っているようだ。
「朝比奈さんの誕生日」
「ちがーう」
「古泉か長門の誕生日」
「知らないわよ、そんなの」
「ちなみに俺の誕生日は――」
「どうでもいい。あんたって奴は、今日がどんなに大切な日なのか解ってないのね」
お前だって俺の大切な気持ちをわかっていないよな。…なんて言ったところでこいつがまともな返答をしてくるわけがなく、その言葉は喉元まで出かけたがすぐに飲み込んだ。
「今日は何月何日か言ってみなさい」
「七月七日。……もしやとは思うが、七夕がどうとか言い出すんじゃないだろうな」
そんなベタな、と鼻で息をした俺をさらに嘲笑うように、ハルヒもふんと鼻を鳴らした。
「もちろん言い出すつもりよ。七夕よ七夕。あんたも日本人ならちゃんと覚えてないとダメじゃないの」
いつから七夕を覚えていなければいけないということが日本人に義務付けられたんだろうな。
溜息を吐き、ふいに視線を上げると、どうにも物憂げな顔で黒板を睨みつける名前が視界に入った。…どうかしたんだろうか。
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