あの日をもう一度 「――まずいことになりましたよ」 聞きたくも無かったが大体の予想はついていたさ。古泉が閉鎖空間発生をお知らせいたします。――じゃねえよ!なんなんだ、あいつは。俺が四番バッターらしからぬ働きだから失望して不機嫌?その結果閉鎖空間発生? 「恐らくそれだけではないでしょう」 「…他に何があるんだ」 「苗字さんのことです」 「名前?」 ええ、と頷いて、古泉はベンチで俯いている名前へと一瞬視線を向ける。 「彼女が怪我をしていることに気づかず、それどころか『走れ』と急かしたわけですから。罪悪感のようなものでしょう。そんな自分に対し嫌悪を覚え、それもまたストレスとなっている」 「…どう転んでも迷惑なやつだな」 しかし、なんだ。黙っていた名前にも責任はあるわけだしな。そして俺にも。 この回は抑えようと奮起することを決意し、俺はグラブをパンと鳴らした。 奮起した結果は2点追加ということなのだが。 まあ、9点で抑えたところはいいだろう。次でなんとかする必要がある。朝比奈さんが名前の足の手当てをしようとしても、あまりのひどさで直視はできないようだった。 「私がする」 ぽつりと長門が呟いて、名前の足元へと跪く。ごめんね有希、と聞こえるか聞こえないか程度の声音で名前の声がした。 「さっきの続きですが」 古泉がグラウンドに視線を向けたまま呟いた。できることなら聞きたくないな。 「実は対処療法はあります。あなたが前回、涼宮さんとともにあちらの世界に行ったとき、どうやって戻ってきました?」 …忘れたい出来事をさっくり掘り返してくれたな。あのことを思い出そうとすると、苺ミルクの香りまで思い出す。 「あの手を使えば、ひょっとしたらまたうまくいくかもしれません」 「断る」 絶対、ぜったい、ぜーったい、いやだね。少なくとも今ははっきりするほどリアルな現実世界にいるんだ。今度こそ俺の精神は病んでしまうかもしれん。 そう言うと思っていました、と古泉は続けた。 前*次# [戻る] |