18日08時26分
――まさか自分があんなにじゃんけんに弱かったなんて。
ぴりりり、と音を鳴らす目覚まし時計に手を当てる。時刻八時二十分。今日の集まりは昼だったな、と思いながら体を起こし、部屋を出た。
リビングのソファにぷっくりと何かが乗っかっているのを見て、自然に頬が緩む。起きて誰かが家にいるだなんて、昔の僕は想像もしなかった。ゆっくり、音を立てないように近づいて、眠る彼女の顔を覗きこむ。
タオルケットで鼻の下まで隠れていた。息がしづらくないだろうか。手を伸ばしてタオルケットを引っ張ってやると、引っ張るなとでも言うように彼女はタオルケットの中に頭まで埋まってしまった。頭隠して尻隠さずとはこのことだな、と妙に達観した頭で考えてしまう。
「……名前さん」
「……………」
「……名前さん、朝ですよ」
「……………」
返事は無い。
まさか無理に起こすと不機嫌になるタイプだろうかと思いつつ、とりあえずカーテンを開ける。さすがにもう外は明るい。差し込む日差しの強さに目を瞬かせていると、小さな声がした。
「名前さん?」
「うう………?…うえ………え!?」
「―――あ、」
瞼を開いた彼女が、視界に入る僕を見つけてぱちりと瞬きをしたかと思うと、そのまま前のめりになってソファから転げ落ちる。ゴトン!とこれまた痛そうな音がした。急いで駆け寄って起こすも、彼女は自分のしたことが相当恥ずかしかったのか、ソファの上に広がっているタオルケットを掴んで顔を隠す。
「だ、大丈夫ですか?頭を打ったりは、」
「して、ません」
声が震えている。
言いようの無い気持ちが胸にこみあげて、ついタオルケットごしに彼女をぎゅう、と腕に抱え込んだ。「やめ、」制止の声を上げようとしているが、うまく身動きが取れないらしくじたばたして、疲れたのか動きを止める。タオルケットから顔を出した彼女は、顔面が真っ赤だった。
「………言い訳になるけど、あの……、いつも、布団だから。高さとか…、その、…………」
落ちるなんて想像していなかった、ということだろうか。
もごもごと口ごもる彼女に、笑ったりしませんよ、と言うと、彼女はそっとタオルケットから顔を覗かせた。そのとき僕がどんな表情を浮かべていたのかはわからないが、彼女が不服そうにまたタオルケットの中にもぐりこんでしまったところを見ると、僕の顔は笑っていたんだろう。いつもの工作スマイルではなく、恐らく心から。
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