17日23時49分
帰ってすぐに冷蔵庫に食材を入れ(冷蔵庫にものがたくさん入っている状態をひどく久しぶりに見た)、交互に風呂を使い、風呂から出た後でなんとはなしにテレビを見る。相変わらずニュースばかりを流しているけれど、彼女はとくに見たいものは無いからこれでいいと、僕と同じようにニュースを見る。
恐らくは終電だろう、電車の通っていく音がした。ガタンガタン、と簡素な音が聞こえてどこかへ行ってしまったのを合図のように、テレビを消す。彼女があくびをしたからだ。
「寝ましょう。今日は僕のベッドを使ってください。そこしかベッドがありませんから」
考えなしに彼女を家に引きずり込んだものだから、お客様用の布団なんて用意しているはずがない。家主としては当たり前の提案に、彼女は不服そうに眉を寄せた。「いや」という拒否の言葉つきで。
「そしたら古泉くんはどこで寝るの?」
「ソファで寝ますよ。寝るくらいのペースはあるでしょう」
人を招くことを想定して設置したわけではないので、二人掛けが精一杯のラブソファしかリビングには無い。けれど、まあ足ははみ出るにしても寝れることは寝れるだろう。明日になって布団でも買えばいい話だし。
しかし、こういうことには頑固なのか、彼女はいやいやと首を振った。
「だったら私がソファで寝る。体格的にもそっちのほうがいいでしょ?」
「お客様をソファで寝させるわけにはいきません」
「いいの。こういうときくらい私の意志を尊重してくれてもいいでしょ!」
なんか父と娘みたいな会話になってきたなあ、と思いつつ頑として首を縦に振らないでいると、彼女は篭城するかのようにソファに座り込んで寝転がった。「ちょっと、名前さん!」起こそうとするとセクハラっぽくなってしまうので迂闊に手も出せず、僕は困り果てる。
むすっとした表情で、これは言うだけでは動いてくれそうにないな、ということが見て取れた。
「……わかりました。じゃんけんをしましょう」
「…じゃんけん?」
「そうです。勝ったらソファで寝る。負けたらベッドで寝る。それならいいでしょう?」
「いいよ」
ソファから起き上がった彼女と対峙して、拳を振り上げる。「じゃんけん、」じゃんけんなんて時の運。そのときの僕は、こんなときに負けるほど自分の運は悪くなかったはずだと考えた。
「ぽん!」
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