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17日21時02分


「何を買われるんです?」

「えーと、とりあえずサラダに使えそうなレタスと……、トマトと、あ、卵欲しいな」

帰ったら冷蔵庫に入れなきゃね、と言って陳列棚に視線を向ける彼女を見下ろし、くすりと微笑んだ。全部日持ちしないから少ない量でいいや、と選んでいく手際のよさに感心する。

「また買い物しに来なきゃいけないね。大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ」

冬場ならこんな心配しなくていいんだけど、と言いながら彼女は僕の手を引いた。カゴの中に入った野菜を積みかさね、空いたペースにファミリーサイズの飲み物を入れる。それから、あまり人のいないパンのコーナーで6枚切りの食パンをひとつ。
お金はちゃんと後で返すから、と言っているが、受け取るつもりは全く無い。どちらにせよこのシークエンスはリセットされるのだから、と言ったらきっと彼女は怒るだろうから黙ってはいるが。
レジに向かって歩きながら、ふとポケットに入れた携帯が振動したことに気付き足を止める。それが誰であるのかなんてわかっていた。メールボックスを開き、案の定森さんからであったことに言いようのない気持ちを覚える。さすが、調べるだけなら早い。

「古泉くん?どしたの?」

「ああ、いえ。盆踊りと縁日がセットになったところを、見つけたそうで」

「…あったんだ」

もしなければ機関の人間総出で縁日と盆踊りを用意しただろう。そのくらいなら容易くしてしまえる集団だ。いや寧ろ、僕が知らないだけで、本当は機関の上層部の人間が作ってのけたのかもしれない。ありがとうございます、と返信して、今度は涼宮さんのアドレスを呼び起こす。

「明日だそうです。楽しみですね」

「早いねえ………」

これが機関主催によるものでなければ、涼宮さんの願望が実現したのか。どちらでも構わない。とりあえず涼宮さんに連絡をしておかねば。
会計を済ませて外に出ると、濃紺の空が広がっていた。もう時間も遅い。夏はいろんな輩がうろついているからなるべく早く帰るべく、また手を握る。夏独特の生ぬるい空気が、今は自然と心地良かった。そばに誰かがいる、そしてその誰かによって、こんなにも気分が違うなんて。
このシークエンスがリセットされてしまうことはとても悲しいけれど、このシークエンスの僕だけが彼女と一緒にいられるのだ、と、そう思うと、自然と優越感のような、奇妙な感覚にとらわれた。少し強めに手を握ると、彼女はどうかしたの、と言って僕の顔を覗きこんでくる。

「……なんでもないです。さ、早く帰りましょう」

「うん」



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