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17日19時17分


不安なのは本当だ。一度は頷いてくれたとしても、いつどこで気が変わるのかなんてわからない。いくら彼女がお人よしであるとしても、僕に向けている同情にも限界があるだろう。
嫌われない、嫌いになれないラインぎりぎりを選んで行動しているのだから僕もたいしたものだ、だなんて自画自賛してみるが、実際のところ心は怖くて仕方ない。
あんな暴挙に出たのは一種の自棄であるからにして、家にまで戻って冷静になってしまえばなんであんなことしたんだろうと後悔が胸を渦巻くばかりだ。だからと言って、もう帰っていいですよ、と言えるほどの余裕はまだ無い。できたとしてもそれを口にするつもりは無い。

「じゃあ、電話するけど……。決して喋らないように」

決して中を覗かないでくださいね、と鶴の化身の女性に言われた老夫婦のような気持ちで頷けば、彼女はゆっくり携帯を開いた。
それから手馴れた動きで彼の電話番号を呼び起こし、コールする。それほど音量が大きいわけではなかったが、静かな室内ではよく声が響いた。

『……もしもし』

「あ、キョン?」

『ああ。おい、お前今どこにいる』

挨拶もおざなりに、突然核心に触れてくる。一瞬僕の腕が震える。微細な動きでも彼女には通じたらしく、安心して、と言わんばかりに軽く叩かれた。

「有希の家だよ。今日は泊まることになりそう」

無難な言い訳を口にした彼女に安堵をするのもつかの間、

『………嘘だろ』

彼の言葉に、僕の心臓が一気に冷えていった。

『長門には連絡を取った。お前の帰りが遅いしな。でも、長門は来てないって言ってたぞ』

なんてことだ。裏づけを取られていたのか。今から朝比奈さんの家だと言い直すのもおかしいし、どうするつもりなのだろう。彼女は嘘があまり得意ではない人だ。いや、変なところで嘘と演技が上手ではあるが。彼相手に、何を言うのだろう。
僕の動揺と引き換えに平静を手にしたように、彼女は淡々と言った。

「それ嘘」

『は?』

思わず僕も彼と同じことを口にしそうになってしまったほどだ。
彼女は軽く笑い、

「あのねえ、私が有希と一緒に、キョンを驚かせようって話をしてさ。本当ならキョンが皆に連絡して、どこにもいないから、どこ行ったんだー!って私の携帯に連絡してくるまで待とうと思ったんだけど。連絡が遅いからこっちからかけちゃった」

と、あっけらかんと言い放った。



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