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17日19時10分


「そばにいるっていうのは、古泉くんの家にいるってだけでいいの?」

「そうですね。さらに欲を言えば、行動の際にも一緒にいてほしいですけど。それはさすがに、不審に思われるでしょうし」

ティーポットをコンロで温めながら口にすると、ソファで適当にチャンネルを変えていた彼女はそう、と短く呟いた。人の家だから寛ぎにくい、と表情に出ていたから、いくらでも自由に過ごしてくださいと言ったばかりだ。居心地悪そうにチャンネルを変えては戻して、を繰り返している。
人が来ない部屋だから、あまりそろえていない食器も今は出さなければいけない。
気を遣わないで、とどこまでもお人よしな言葉は無視することにした。僕が無理矢理この家へ招いたのだ。少しくらいのおもてなしはさせてほしい。

「そう言えば、もうそろそろ晩御飯の時間ですね。何か食べたいものはありますか?」

紅茶のパックをカップに落とした僕は、ティーポット片手に問いかけた。
結局バラエティ番組に決めたらしい彼女が、ようやくリモコンから手を放してこちらを向く。

「私は、別に。あるもので」

「だとすると、昨日の残りものになりますが」

「いいよ。気にしない」

僕は多少なりとも気にするんですけどね、とは口にせずに、昨日の残り物のカレーを温める。インスタントにちょっと手を加えた程度のものだ。この夏は涼宮さんの機嫌もよく、閉鎖空間が多発してないおかげで、あたたかい料理を食べる余裕がある。夏場にあたたかい食べ物を食べたい、というのもなんだかおかしな気がするが。
底に面している部分が焦げないように弱火にしてお玉を突っ込む。くるくるとかき混ぜていると、ふと背後で、そうだ、と彼女の声がした。どうしたんですかと問いかける。

「早いうちにキョンに連絡をしておかないと」

「……ああ」

忘れていた。
ほとんど熱に浮かされたような状態だったから、そんな重要なこともぽっかり頭の中から抜けていた。駄目だ。いくらこのシークエンスが確定しないからと言って、無理に現実を捻じ曲げようとすれば、彼女の知っている未来は変わってしまうだろう。それだけは避けたい。
電話してくるね、と言って立ち上がろうとする彼女を呼び寄せ、首を傾けて近寄ってきた小さな体を腕に抱く。「は!?」突然の出来事に目を丸くしている彼女をくるりと回転させ、後ろから抱き込むようにした。わけがわからないと僕を見上げてくる彼女に、わかりやすいよう言葉にする。

「目の届く範囲にいないと不安になるので」

「いや、でも電話してくるだけだし、」

ていうか近すぎなんじゃ、と身じろぐので、もうちょっと力をこめてみる。

「何もしないって言ったじゃんか!」

声を荒げた彼女に僕は肩をすくめて見せた。

「このくらいならスキンシップの範疇に収まりますよ」

「……………」

溜息がひとつ。けれど、呆れながらも、僕の腕に触れる手はやさしかった。



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