17日18時55分
テレビから、緊張感の無い音楽が流れてきた。地域交流だか何だかで、子供たちが独自にインタビューを行っている。そんなさなか、僕は彼女に告白している。随分シュールな図だな、と頭の中で思いながら、くすりと微笑んだ。
「このシークエンスが確定しないのは、名前さんのお墨付きです。だったら僕も少しだけ、いい思いをさせてもらいたいな、と思いまして」
「いい思いって………」
居心地悪そうに身をよじらせた彼女を引き寄せて、もう一度抱きしめた。さすがに夏場だからか、かすかな汗のにおいがする。ただそれ以上に、彼女が使っているものだろうか、シャンプーと、石鹸の香りがした。されるがままの彼女は、僕に対して同情でも覚えているのだろうか。別にそれでも構わないけど。
「僕に対する同情でもいい。そばにいてくれますか」
「……返事は、さっきも言ったよ」
「言ってません。頷いただけです」
一歩間違えれば脅迫ならびに監禁だというのに、彼女は一度も「怒り」を表情ににじませることは無かった。決して僕を突き放しはしないかわりに、抱きしめ返しもしてくれない。
「そばに、いるよ」
「……ありがとうございます」
それでも。
一緒にいてくれると言うのならば、僕はそれに甘えよう。きっとこれから先、僕の思いが成就することは無い、だから。8888回目のシークエンスの、消えてしまう僕くらい、いい思いをしたっていいじゃないか。
「だけど、古泉くん」
「……はい」
バランスを保つために僕の腕に触れている彼女が、そっと手を放した。
もたれかかってくる小さな体をさらに強く抱きしめる。くるしいよ、とかすかな声が聞こえたけれど、僕は何も言わない。
「私は、古泉くんのこと、嫌いじゃないよ」
「はい」
「だけど、恋愛感情を前提として、好きでもない」
「……はい」
わかっていますと呟くと、彼女は小さく頷いた。
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