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17日18時41分


鍵を開けて入り込んだ家の中は、真っ暗だった。
すぐ横にある玄関用の電気をつけて、彼女を招く。礼儀正しく靴を整えた彼女が、おぼつかない足取りで僕の後ろについてきた。
散らかったリビング、『古泉一樹』らしからぬ汚さに、彼女は唖然としたようだ。きょろきょろと僕とリビングを交互に見て、それから仕方のない人、とでも言うように溜息をつく。
ソファの上に広げられた書類を適当に取っ払って、テレビをつけた。「座ってください」と言うと、彼女は申し訳なさそうにソファに腰を落とす。その横に座って、警戒心丸出しの視線を正面から受け止めた。

「……なんで、私なの?」

その、心から困惑した声を出されると、なんとも言えない気持ちになる。
つけたテレビはやっぱりニュースを放送していた。数日後の花火大会の特集。花火職人のインタビューや、出店の紹介などをしている。
彼女はきっと、近くにいたのが自分だから選ばれたに違いない、と思っているのだろう。それは心外だ。

「今ここで口にすると軽く捉われてしまうかもしれませんが、そうですね。……僕は、あなたが好きなんですよ」

「……………」

心底疑わしい瞳を向けられた。

「ほらね。そんな表情をされてしまうから言いにくかったんですけど」

「……本当なの?」

「本当ですよ。何かを賭けてもいい」

名前さんはぱちぱちと瞬きをして、それからテレビに一瞬視線を移した。それはただ単に僕から視線をそらしたかっただけかもしれないし、テレビの音が気になっただけかもしれない。
すぐにこちらに視線を向けて、やっぱり信じられない、でも、と迷うような表情を浮かべる。

「あなたは彼のことが好きですか?」

「彼って………、キョンのこと?」

こくりと頷くと、彼女は顔を赤らめることもなく、首をぶんぶんと横に振る。
嘘がつけない、素直な方だ。きっと本心から言っているのだろう。嬉しいような、彼に対してかわいそうなような。

「言わせていただきますが、彼はあなたのことが好きなんですよ」

「………はっ!?」

「多分、まだ自覚の段階までは行ってないでしょうがね。傍から見ていれば丸わかりです」

「そんなことないよ!」

あなたも鈍いからわかっていないだけなんですよ、と言うと、彼女は押し黙る。
心当たりがあるわけではないだろうけれど、彼女は人の意見にきちんと耳を傾ける人だ。古泉くんが言うのならそうなのかも、と考えているところなのだろう。

「ですから、僕も言い辛かったんですよ。言えば、間接的にでも彼の機嫌を損ねることになる。彼の機嫌の低下は涼宮さんにも影響を及ぼす」

「……………」



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