17日18時14分
僕と一緒にいてくれませんか。
僕と一緒にいてほしいんです。
僕と一緒にいてくだされば嬉しいんですが。
そんな控えめで頼りない言動ではなかった。『僕と一緒にいてください』。半ば強引なお願いだ。
彼女は僕の発言に驚いたようで、頭の中で必死に理解しようとしているらしい。おおよそ一分ほど経過してから、ようやく処理ができたらしく、稀に見る驚きようで拙く口を動かす。
「は、え、あの、どういうこと?」
「申し上げたとおりです。このシークエンス中だけでいい。僕のそばにいてください」
どうせ一緒に過ごしたことは忘れるんだから。
自棄的なことを心の中で呟いて、微笑んだ。もう一度、どういうこと、と言って考えている様子の彼女の腕を引く。僕の腕の中に閉じ込める。喉を引きつらせるような声を上げた彼女が、とたんに硬直した。かわいい。
「僕、ずるい人間なんですよ」
ぎゅう、と背に回した腕に力をこめれば、彼女はほんの少しだけ身じろいだ。僕の腕から逃げてもいいのか考えあぐねているらしい。いつもの僕らしからぬ行動に、心配でもしているのかもしれない。いっそ笑ってしまうほど、お人よしな人だから。
「確信してるんです。……こうやって」
腕の力を抜いて、彼女の顔を覗きこんだ。いつもの仮面めいた笑顔を浮かべるように、悲しい表情を繕う。「!」心配そうな表情を浮かべた彼女を見て、すぐにいつもの笑顔に戻した。
「悲しそうな表情を浮かべれば、あなたは僕と一緒にいてくれるんじゃないかって」
「……………」
また抱きしめなおして、硬直したままの彼女の耳に唇を寄せる。唇が触れるんじゃないかと思うほどの至近距離で、このシークエンス中だけでいいんです、と囁くと、彼女はびくりと震えた。
「何もしません。そばにいてくれるだけでいいんです。どうか」
悲しい声を装って出せば、彼女は断ることなどきっとできない。
しばらくしてから、彼女は僕の胸をやわらかに押し返した。素直に腕から力を抜き、一歩ほどの距離を置く。彼女の瞳が、かわいそうなものを見るように僕を映し出す。
「ご承諾願えますか?」
「……………」
躊躇いがちにこくりと頷いた彼女に、ありがとうございます、と言って手を伸ばした。本当にいいのだろうかとでも言うように握られた手を引っ張って、僕のマンションへと向かう。大丈夫。いやな思いなんて二週間で消える。二週間で潰える思いなのだから。
だから今だけ、縋らせてください。
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