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ベンチにて小話


「プレイボール!」

ああ、始まってしまった。アレコレあったものの、結局俺の願いは空どころか空中にも届かなかったわけだ。
グラブのなじまない感触に無理にでも慣れようとしつつ、視線をベンチに憮然と座っている名前に向ける。だいぶ機嫌は直ったようだが、相変わらず俺には態度が冷たいようだ。

「ハルヒ頑張れーっ!!」

声援が轟く中、小気味良い音を立てて白球が宙を舞う。ハルヒの運動神経を考えると今更驚くことは無かったが、名前は驚いていた――驚いていたというよりは、純粋に感動していた、だな。文字だけの世界が目の前で映像化されているんだから。

「すごいすごーいっ!みくるちゃんも頑張れーっ!」

続いて声を張り上げるが、表情は微妙だった。その表情を見ていると、朝比奈さんが打てないんだな、ということがはっきりとわかる。あいつわかりやっすいなぁ。
地蔵のように固まったまま戻ってきた朝比奈さん、微動だにせず三振してきた長門、そして次は俺。

「……………」

すごいな、ある意味すごい。俺の打順になった途端に黙り込むとな。しかもこっちを見ないときた。ここまで拗ねるのも珍しいな。俺は俺なりに心配してるのに、と僅かな怒りと寂しさが湧き上がってくる。
まあ、ここまでくると相当名前も野球をやりたかったんだな、ということがわかった。

「アホーッ!」

見事球を空振りし、戻ってくれば名前はやはり憮然とした表情でベンチに腰を落としている。長ズボンのジャージはかっちりと足の包帯を隠しているが、やはり痛いのだろう。時折気にしているようだった。やっぱり出すのは駄目だな。一瞬出してやろうかと思ったが…。

「名前ちゃん、キョンくんとけんかしたんですかぁ?」

朝比奈さんが名前に小声で問いかけているようだ。しかし朝比奈さん、モロ聞こえてます。名前は苦笑して、「いいええー」と首を横に振った。

「私がキョンのアンポンタンとけんかなんかするわけないじゃないですかー」

「そうですかー…え?えー…っ、と…?そ、そうなんですかぁ…?」

「そうですよー」

笑っているが怒っている。負のオーラが俺の半身にびしびしと伝わってきたぜ。



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あきゅろす。
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