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17日13時21分


「……」

「少なくとも」

言葉を区切って、長門さんが僕を指差す。色の白い指先が、僕の鼻の前あたりに固定された。

「十七日という早い段階で気付いたのは、今回のシークエンスの『あなた』だけ」

見下ろす長門さんの瞳に、感情は見受けられない。彼女は、八千八百八十八回も、ずっと、一人で、繰り返してきたんだろうか。誰も彼も、日々が繰り返していることに気付かない。ループ。それを、ただ見ているだけ、なんて。

「……僕…、ですか」

「そう」

「………………」

長門さんはそれきり、また黙り込んでしまった。
頭の中が真っ白だ。夏が、繰り返している?正直、自分で言っておきながらありえない、なんて考えていたのに。いや、涼宮さんにはありえないなんて言葉は通用しないだろう。世界ひとつを壊してしまうことだって容易い人だ。たかが数日間を繰り返すくらい、造作も無いことに違いない。

「どうすれば……、ループから、抜けられるのでしょうか」

「明確にはわからない。涼宮ハルヒが思い残していることを解消させる必要がある。今までのシークエンスであなたたちが気付き、対処法を施しても、ループからは抜け出せなかった」

「では今回は、僕が早い段階に気付いたから」

「抜け出せるとは限らない。三十一日まで過ごさなければ、涼宮ハルヒが何を思い残しているのかを把握は出来ない」

正論を突きつけられて、僕は黙り込む。
いったい、何回夏を繰り返せば、涼宮さんは満足するんだろう。いや、それがわからないから考えるんだ。八千八百八十八回。アラビア数字にして8888回。少なくとも、これだけ繰り返しているのだ。なのにまだ抜け出せれていない。だとすると、今回も――、

「今回のシークエンスが確定するか知りたいのならば」

長門さんが呟いた。
俯き、本の栞を挟んだところを開いて、目を通し始める。彼女は、観測者だ。何事も見守る立場。ループから抜け出たいと思っていても、動くことはできない。

「彼女に聞くといい」

「……彼女?」

長門さんの言葉に、僕は軽く息を吐く。彼女。わかっているんでしょう、とでも言いたげな瞳がこちらを見た。それも、一瞬だけ。僕だって、わかっていないわけではなかった。ただ混乱していただけで。いつもなら簡単に導き出せるはずの答えが、すぐに出てこなかっただけで。
長門さんの、閉じられた薄い唇が、震えるように開く。

「―――苗字名前」



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あきゅろす。
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