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17日13時12分


涼宮さんに言われるがままに駅前に行くと、長門さんがぽつねんと立っていた。朝比奈さんと彼、涼宮さんに、名前さんの姿は無い。
寧ろ好都合だと、歩調を速める。長門さんはこちらに気付いて顔を上げたけれど、何も言わずまた視線を下げた。待つ時間は読書に当てると決めているらしく、やはり手には文庫本がある。

「こんにちは、長門さん」

顔を上げた長門さんは、ゆっくりと頭を揺らしたようだった。会釈のつもりだろうか。そもそも返事を期待してはいなかったので、また顔を伏せられる前に、すぐに本題に入ることにする。

「すみません、お聞きしたいことがあるのですが、少しよろしいですか?」

長門さんは軽く瞬きをしたかと思うと、手元の文庫本をぱたりと閉じた。「なに」、と、この真夏日に似つかわしくない、温度を感じさせない声音が呟く。

「単刀直入にお聞きします。今、僕たち……、正しくは、全人類に。何か、異変は起きていますか?」

「……………」

長門さんは黙り込んだ。普段、彼が言うところの「無表情なりに表情はある」、という言葉が今頃理解できた気がする。いつもの無表情なのに、今の長門さんの顔には、やっとわかったの、とでも言いたげな、不思議な感情が含まれていた。
こくんとやや深めに頷いた頭を見て、確信する。

「不自然な既視感があったんです。今日、僕に。今から言うことは、僕の憶測でしかありませんが――、もしかすると、今、僕たちは」

言いたいことがうまくまとまらなかった。けれど長門さんは、続きを静かに待ってくれている。期待するかのように。待ちわびていたかのように。

「………夏を、繰り返しているのでは、ありませんか………?」

「……………」

長門さんが、頷いた。

「――――」

言葉にもならない僕を見上げながら、長門さんはぽつぽつと呟いていく。

「正しくは、八月十七日四時から三十一日二十三時五十九分五十九秒にかけて。九月に入る直前に全人類の十七日からの記憶は抹消され、新たに十七日が始まる。今日も、そう」

「そんな………」

途方も無い話だ。
思わず膝から抜けそうになる力をなんとか保って、軽く頭を振った。きゃいきゃいと楽しそうな声を上げながらはしゃぐ女子高生。昼食時に自由に歩き回るサラリーマン。プールに行くのか、ビニールバッグを持って駆け回る小学生。
この人たちも、みんな。みんな、記憶の操作を受けて。

「じゃあずっと、僕たちは……同じ夏を、繰り返していたんですね。今回は、何回目ですか?」

「八千八百八十八回目に該当する。けれど、あなたの言葉は正しくない。八千八百八十八回のシークエンスにおいて、必ずしも全部が同じというわけではなかった」



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あきゅろす。
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