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17日12時38分
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眩暈がするような暑さだった。

『八月十七日、曇り一つ無い晴れの日です。今日の昼から夕方にかけての最高気温は二十九度と予測されています。平均気温は二十八度とやや高めです。お出かけの際には帽子をお持ちしたほうがいいでしょう。それではお昼のニュースに移ります――』

手を伸ばしてリモコンを取り、テレビの電源を切った。プツン、と軽い音がした後に、静寂が訪れる。エアコンが稼動している音と蝉の鳴き声が耳をくすぐった。涼しいはずの室内なのに、聴覚から入り込む夏の虫の鳴き声は、やたらと体を暑くする。聴覚効果というものだろうか。そんなものあるのか。
手元にある書類たちが、ばさばさと崩れていった。企画書とレポート、報告書などだ。なかにはSOS団の活動記録や個人データもある。それらの整理に追われながら、またテレビをつけた。この時間帯にはあまり面白い番組はやっていないのだが、どうにも誰かの声がしていないとつまらない。だからと言ってドキュメンタリーや昼のドラマを見る気にはなれず、やっぱりニュースに落ち着いた。今は水族館の特集をしている。
そのときの僕は、なぜか数秒後、誰かから連絡が来るような気がしていた。誰か、とは言うよりははっきり言ったほうがいいだろう。涼宮さんから、だ。持っていた書類をベッドの上に放り出し、かわりにベッドの上に放り出していた携帯を掴む。
その瞬間、もはや奇跡としか言いようの無いタイミングで携帯が音を鳴らした。一応ツーコール待ってから、通話ボタンを押す。

「はい、古泉です」

『――あ、古泉くん?あたしだけど。次に言う物を持って二時に駅前集合ね!』

やっぱり。
涼宮さんは持参物を一度言い、確認のためにもう一度言って、それからすぐに電話を切った。
携帯を持った手が、やや震えている。今日は何日だっけ?ああ、さっきテレビで言っていたばかりじゃないか。八月十七日、夏休みももう後二週間になる、真夏日だ。
何だったのだろう、あの、はっきりとした既視感は。不自然なこの感じ。
常に何事かの不思議に見舞われる立場に立っているのだから、それなりの事件に巻き込まれていて、それを認識していない、と言う可能性だっていつでも考えている。まさか今、僕は何かの不思議に見舞われているのではないだろうか?
なぜかそんな気持ちがずっと胸の中でぐるぐる回る。準備物を用意しながらも、頭の中でずっと。なんだかおかしい。これはただの日常ではない。誰かに確認を取らなければ。たかが既視感ひとつで――と、笑われても。
そうだ、長門さん、長門さんに、聞いてみよう。彼女ならば、答えてくれる。そして、たかが既視感だと、笑ったりもしない。どうか間違いでありますように。ああでも、いつになっても、手の震えが治まらない。



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