拗ねらせちゃった
俺から試合参加不許可を申しだされた名前は、力の限り嫌そうな顔と言葉をもって俺を睨みつけていた。
「野球したい。キョンの馬鹿。大丈夫なのに。やーきゅーうー」
どうしてこうもこの少女はギャップが激しいんだろうな。今は俺の妹みたい、いや、同等と言ってもいいだろう、そのくらい幼く見える。尖らせた唇なんかまさにそれだ。
「だ・め・だ。悪化したらどうする!それともお前は、何か?古泉や長門に怪我をしていることを教えられたいのか?」
「だ…、だめ」
古泉も長門も恐らく俺と同じく制止をかけるだろう。朝比奈さんなんか顔を真っ青にして止めそうだ。ハルヒあたりは「まあやりたいならやりなさい」とか言いそうだがな。
あらかじめ朝、ハルヒには名前は持病の腹痛が、と言っておいた。信じた様子のハルヒは俺の連れて来た参加者と話をしつつも、時折気にするようにこちらを、名前を見ている。
「というわけで、『腹痛の』お前はおとなしくベンチで座ってろ。ハルヒにおなか痛そうじゃ無いじゃない!なんて言われたら、顔に出ない体質なんだとでも言っておけ」
「…………」
ほら、と背中を押すと、明らかに渋々と言った様子でベンチへと歩いていく。途中すれ違った古泉に挨拶をするところは普通だ。ああ、こりゃ完璧拗ねたな。歩いてきた古泉が「一体何をなさったんですか?」と笑顔で聞いてくる。挨拶はできても表情までは直せなかったらしいな。
「なに、腹が痛いそうだから休めと言ったら拗ねただけだ」
「そうなんですか?それは……、どうとも言えませんね」
「何がだ」
「彼女の意思を尊重してあげたいと思うのも反面、腹痛があるなら休んで欲しいと思うのも反面。と言う意味です」
「…」
野球なんざやろうと思えばいつでもできるだろう。ただ、ねんざっていうのはクセがつくからなるべくならさっさと治したほうがいいんだ。
そうこうしているうちに、朝比奈さんの友人だという『鶴屋さん』なる方が現れ、
「キミがキョンくん?みくるからよっく聞いてるよっ。ふーん。へえーっ」
と言われた。何を言われてるんだ俺は?
訝しみ、考えている俺の思考を横殴りに掻き消すように、こちらにやってきたハルヒが「キョン、ちょっと来なさい」と凄みある声で言ったのだった。
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